99/12/20 第五回 ベストアルバム 1990-1999 Selected by Sadanari Deluxe |
− 夜空ノムコウの年に、'90年代の傑作登場 −
■ 一面の雪原に、ジョニの歌声... [ ROCK ] このアルバムを買ったのは'98年の暮れ、この年の12月20日からスタートするロック・クロスレビュー「ロック・クルセイダーズ」第一回のためだった。 ところが...言い出しっぺの私が恒例の(?)日本縦断支店巡り出張にあたり超多忙。仕方なく出張カバンにウォークマンと資料を詰め込んで...そう、北海道で聴いたのだ。そして、それが最高だった。 札幌出張が丁度週末にあたり、帰路を急ぐ必要はない。「ここはひとつ...」と以前から考えていた「札幌〜戸越公園、電車で帰宅」を遂行した。面白かったが...もういいや。二度はやらない。仙台あたりで思いっきり飽きました(笑)。 そんなわけで、このアルバムを聴くとその時に見た北海道の光景、抜ける様な青空と一面の雪原が強烈に浮かんで来る。これは単に「私がそこで聴いたから」ではないだろう。実際にそんなサウンドなのだ。そこで思い出されるのが、このアルバムのリリース時に比較されることの多かったジョニの名盤『逃避行』('76)のジャケットだ。考えてみればあのアルバムは、雪原に佇むジョニのモノクロ写真がカヴァーになっていたではないか。 アメリカの音楽界ですっかり大スターになってしまったジョニだが、その心にはいつも出身地であるカナダ西部の原景が映っているのかもしれない。私はたまたま、北海道を行く列車の中で聴き、それに気付いてしまったのか...。 |
■ TVスクリーンに現れた、皮肉屋の青年 [ ROCK ] TVを観ない、という友人は多い。そのほとんどは音楽ファンで、「クダラない歌謡曲とか、イヤなんだよ」などと中々の辛口である。可哀相になぁ、TVから流れて来るのは雑音だけじゃないのに。ごくまれにはっとする様な出会いもある。例えばこのルーファス・ウェインライトの様に。 ヴェネトンの説教臭さに対抗して(?)、GAPのTVCMはひたすらヒップでクールだ。床も天井も真っ白のセットに、ただ人物のみが現れる。ある者は歌い、ある者は踊り、ハーブ・アルパートはトランペットを吹き(笑)。そのGAPのCMにグランド・ピアノと共に登場し、何ともネバっこく歌い出したのがこのルーファス・ウェインライトだった。 最初は誰だか全く判らず、そのサウンドに驚いた。そのうちにMTV番組で同じ声を耳にした。曲は「エイプリル・フールズ」。そしてそのアレンジに叩きのめされた。 ここでもまだその正体は掴みきれていなかったのだが、暫くするとあちこちの雑誌で採り上げられる様になり、やっとCMとMTVと、そしてプロフィールが揃うことになる。それが、実に、大変な奴だった。 有名ミュージシャンを両親に持ち、音楽大学ではバート・バカラックの後輩にあたる、そして今まで耳にしていた曲のプロデュースは我が最愛のヴァン・ダイク・パークス! こんな出会いをもたらしてくれるなんて、TVも中々ヒップな奴じゃないか。しかしTVCMの放映期間なんてほんの僅か。今やかのCMも幻となってしまったが...このCDはお近くのCDショップにて購入可能である。(こちらのページにも詳しいレヴューアリマス) |
■ ワタシのヒーローが共演した! [ ROCK ] 薄暗いスタンドの元でマンガを読みながら深夜放送を聴きまくり視力が激しく低下、メガネを掛け始めたのが中学1年の時。そんなメガネ人生20余年の私の、中学生以来のヒーローが同じく「メガネロッカー」であるエルヴィス・コステロだった。一時はメガネにコンプレックスもあったけれど、超ド近眼乱視入りで裸眼では道も見えない(!)私にとって、黒ブチメガネでシャウトするコステロは心からの「憧れの兄貴」だった。シビレまくっていた。コステロに対する熱い思いはこちらのページにもじっくりと書いてある。 そしてバート・バカラック。彼は私に「ポップスの面白さ」を教えてくれた恩人の様な人だ。そもそも小学校に入る前ごろに、日本でバカラックの大ブームがあり、幼心に彼の代表曲は聴いていた。パンクだ、テクノだとツッパっていた高校生のとき、密かにディオンヌ・ワーウィックの中古シングルを買ったりもしていた(笑)。やはりココロのどこかに抱き続けている人、だったのだろう。そして一昨年、こちらのページで書きまくった。 不思議なこともあるものだ。この二大マイヒーローが共演してしまったのだ。かたやパンク・ムーヴメントと共に登場し、1900年代の終盤20数年を駆け抜けた英国の「怒れる若者」(今やオヤヂ)。そしてかたや'50年代から活躍し、かつてはマレーネ・デートリッヒのバックも務めた米国音楽界の大物、ちなみに御年70歳。共通点は...どちらも私がファンであるということか(笑)。 しかしこの共演に納得している人も多いのではないだろうか。そして実は私と同様に、この二人ともにファンだった、という人は少なくはないのではないだろうか。そもそもコステロは10年以上前からバカラックの曲をカヴァーしており、その「前兆」がないわけではなかった。例えば『アウト・オヴ・アワ・イデオット』('84)に収録された「ベイビー・イッツ・ユー」を、『KOJAKVariety』('95)の「プリーズ・ステイ」を聴き、バカラック・ナンバーを完璧なまでに歌いこなすコステロに、「この二人、近いものがある!」と気付いた人もいるだろう。私もその頃から密かにこの組み合わせに興味を抱いていたクチだ。もっともクリティックに分析などしなくても、耳で自然にその「近さ」を感じていたのかもしれないが。 そして'96年、満を持しての共演シングル「ゴッド・ギヴ・ミー・ア・ストレングス」発表。同曲は映画のエンディングに使われて、この共演、一回限りの企画モノかと思われたのだが、出てしまったよ、フルアルバムが。感無量である。 しかしまぁ、いざ本格的な共演を聴くとこの二人、まるで「英米に離れて住むオジサンと甥っ子」の様だ(笑)。前述の通り、両者のナンバーを熱心に聴き続けて20余年という私が聴聴くと...一曲の中にコステロが出て来たり、バカラックが出て来たり。笑ってしまうくらいそっくりなのだ。「あ、ここコステロ。むむ、でもサビはバカラックだぞ」という感じ。そしてこんな贅沢が許されるのか!という至福も感じる。 マニヤックなことを一言だけ書くと、ピアノのバカラックとキーボードのスティーヴ・ニーヴ(元・アトラクションズ、コステロの片腕)の共演も聴きモノである。この二人こそコステロ=バカラック以上に通じるものがあるのだ!そしてその結果は極めて芳醇なアレンジとなって見事に表現されている。うむ、ある意味でいえば'90年代を象徴する名盤、1900年代音楽のひとつの結晶、なのかもしれない...。 難しいことはいいや!グラミー賞云々もあくまで「結果」のハナシ。ともかく、「気持ちのイイポップスが聴きたいな」と思った人にお薦めの一枚。ジャケットに溢れる二人が微笑む写真の数々が、このアルバムの楽しさと成功を物語っている。理屈ぬき、である。 映画『オースティン・パワーズ・デラックス』ではコステロ=バカラックと更にはかつてのアトラクションズのメンバーまでが「辻音楽師」として出演。早々に背景に映っているのに、中々紹介されず、うしろでニヤつくメンバーたち−「あ、さっきからコステロとかいるけど、まだッスか?」−という演出には爆笑してしまった。共演が素晴らしいものであったこと、ハッピーなムードで行われたことはあの一場面からも良く判った。 |
■ 深夜TVに登場した私のギターヒロイン [ ROCK ] ボニー・レイットにはちょっとした思い出がある。まだ千葉の独身寮に住んでいた頃、深夜につけたTV画面に、ストラトキャスターを持ったオバサンが浮かび上がって来た。驚いた。そりゃロックをやるオバサンもいるけれど、クラプトンばりのストラトとの組み合わせはちょっと異質。そのワイルドな(?)組み合わせがあまりにも斬新で...。それがこのボニー・レイットだったのだ。またこの人、ハスキー女優の佐藤友美に似てるんだよ。あの人がストラト持ってロックしてたら、そりゃ驚きますよね(笑)。そんなわけで、その夜から彼女は私の「ギター・ヒロイン」(?)となった(ジューシー・フルーツのイリヤ以来二人目)。 ではそれから彼女のアルバムを聴きまくったかというとさにあらず。なんだかカントリーっぽいのとか、ちょっとブルース入っていたりで、「新しい音」を追いかけていた私にはイマイチマッチしなかったのだ。しかし世の中良く出来ている。ロス・ロボスやラテン・プレイボーイズ、チボ・マットなどで馴染みの深いプロデューサー・チーム、ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクが彼女の作品に参加したのだ。よっしゃ、こりゃ買うしかない。そして聴いてみると...傑作だった。 かつてあるページに書いた文章の再録になってしまうのだが、このアルバムの魅力は「ヴェテランの新譜を若い連中に飛びつかせる、病みつきにさせる」というところではないだろうか。日本のロック・ファンはマジメなので、ヴェテラン勢に対してのリスペクトが深い。深いのだが、では身銭を切って、新作を買っているかというとそうとも言い切れない。ロック・ファンの多くは'80年代のチープなニューウェイヴや、'90年代のヴィザールなモンド・ミュージックの洗礼を受けており、妙なハナシ、「ストレートなロックを正面から受け付けられない」−要するにヒネクレちまっているのだ。 ヴェテラン勢のアルバムはそりゃ尊い。尊いのだがあまりにもピュア過ぎて、ヒネクレた我々にはタイクツに感じてしまう、というのも偽らざるキモチだろう。しかしそこに我々と同じセンスを持った、ヒネクレ・プロデューサー・チームなどが加わると...この様な名盤が誕生するわけだ。今もかけながら書いているのだが...ああ、キモチいい! 「聴いてはみたいけど、オシャレなワタシにはカントリーやブルースはちょっと...」というanan読者などにも薦められる秀作。サウンド的には低音にポイントを置いた、くぐもった音質が斬新で面白い。ミッチェル&チャドの十八番、ヴィンテーヂ・キーボードの使用も極めて効果的だ。いや良く出来ているよこのアルバム。 しかしこう考えるとダスト・ブラザーズと作ったストーンズの新譜ってのも良くできた作品だったんだな。やっぱりベストに入れておけば良かったかな...。 |
・長野冬季オリンピック、和歌山毒入りカレー事件でMIKI HOUSEが迷惑 ・黒澤明監督、淀川長治氏、木下恵介監督相次ぎ死去 ・サダデラ飛躍の年、横浜ジャズフェスでは数人に声を掛けられる ・日本映画ページにも注力、しかし名画座閉館にも直面する(32〜33歳) |
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