99/12/20
第五回
ベストアルバム
1990-1999

Selected by Sadanari Deluxe







− ひだまりの詩の年に、ラテンの充実作続々 −




A Great Noise
Marisa Monte
TOCP-50164 (Toshiba)


■ ブラジル音楽を聴く幸福 [ ROCK , MPB ]

 ジャズの推薦盤をご期待する諸兄には申し訳ないのだが、ご覧の通りこの'97年はついにブラジルの若手が第一位になってしまった。実は第二位もブラジル人なんですけど(笑)。

 '91年の第四位だったメリーザ・モンチは'94年に次回作『ローズ・アンド・チャコール』を発表、鬼才アート・リンゼイと共に自らもプロデュースに乗り出した。もちろん同作品も非常な秀作で、この今回のセレクションに入れてもいいと思った位である(おなじアーティストが頻出するので涙を飲んで除外)。
 その2枚に続けて発表された新作は前半7曲がスタジオ録音による新曲、そして後半11曲はベスト盤的意味合いを持つライヴというユニークな構成だった。曲数からいえば二枚組に近いものがあるなぁ。一枚で二度おいしい(?)アルバムといえる。
 このライヴにおいてもモンチのヴォーカルは正確無比、声は伸び、表現は豊かで、彼女がライヴ・パフォーマーとしても超一流であることを証明するものとなった。なにしろ彼女のホーム・グラウンドは地球の裏側。過去に来日公演はあったものの、簡単にはそのライヴに接することの出来ない日本のファンにはたまらないプレゼントであった。

 しかし、楽しい。ライヴ・パートのオープニングはカエターノ・ヴェローソとジルベルト・ジルの共作曲「PANIS ET CIRCENSES」。'68年発表に発表されたトロピカリア・ムーヴメントを象徴する名曲である。こだわりのオープニングにまず感心。
 続けて繰り出される初期の名曲、「BEIJA EU」や「AO MEU REDOR」、「SEGUE O SECO」のライヴでの再現にはアレンジ、テクニックともに舌を巻く!こ、これがブラジルの実力か?!それにしてもスタジオ盤そっくりの「BEIJA EU」のイントロが流れ出して来た時には、まさに「夢見心地」と言う感じがするなぁ...。
 ジョージ・ハリスンの'73年の全米No.1ヒット「ギヴ・ミー・ラヴ」のカヴァーなんてとんでもないお楽しみも嬉しい。さらにこの曲中にはアメリカの数々のヒット曲が挿入されたりもするのだが、それは聴いてのお楽しみ。しかしどれもごく自然に、ブラジルのオーセンティックなサウンドに聴こえてしまうのはなんとも不思議である。
 そして圧巻はラストの「O XOTE DAS MENIAS」、ルイス・ゴンザーガ(1912-89)の旧曲をきわめて現代的に、かつブラジル東北部の伝統を踏まえつつリ・アレンジしている。モンチのヴォーカルももちろん魅力的だが、ここではサウンドの要となっているアコーディオンが大活躍。「これ"COBA"じゃないのか?」と思うほどそっくりかつ過激な演奏で驚かせる。この曲中ではゴンザーガの他の曲や、フルクローレの名曲などが挿入され、そのフレーズに観客が反応、熱狂するのがCDを通してもわかる。もう、とにかく、最高だよ(涙)。

 同時発売されたヴィデオとセットで購入された方も多いだろう。ジャケットがスゴイのでちょっと女性は手を出しにくいかもしれないが、実は、大傑作!ブラジル音楽未経験の老若男女にお薦めしたい名盤である。ブラジル音楽を聴く幸福をお判りいただけるはずだ。




未知との遭遇の日
Lenine
BVCP6075 (BMG)


■ ブラジルから一足先の二十一世紀 [ ROCK , MPB ]

 というわけで、第二位もブラジルの若手。このジャケット、このタイトル、そして「奇才」「天才」の評。一体どの様な音楽かと買ってみると...唖然。MPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)と呼んでもいいのか、それともこれは一足先に現れた「二十一世紀の音楽」なのか?

 ベーシックなリズムはサンバである。しかし大胆なサンプリングや、ハードな打ち込みリズムを多用したサウンドは...とりあえず、ハードコア・サンバとでも言っておこうか。ブラジルの伝統と近未来の衝突は単なる私のイメージだけではなく、レニーニ本人もかなり意識している様だ。曲中で用いられるサンプリングの中には数十年前の歴史的音源も用いたものもあり、その瞬間、歴史と未来が交錯する。

 今回の特集、ブラジル勢が多くなってしまったが(まだ出て来ます)、これは単純にサダナリ個人にブラジル趣味があるからではない。世界中の音楽を見渡してみて、今、世界で最も斬新な音を創り出しているのがブラジルなのではないか?と思うからだ。例えばこのアルバムの様に。

 '97年の初来日時には行きそびれたこのレニーニ(Vo,g)とマルコス・スザーノ(perc)のデュオ・ライヴは'98年6月の再来日時に観た。「世界最強のデュオ」は単なるキャッチ・コピーではなかった。本当にそうだった。震えた。




ROCK AND ROLL DOCTOR
-Lowell George Tribute Album-
KGCW-24 (kaigan)


■ すべての音楽を愛する人々に [ ROCK ]

 探究派ロックファン(?)の必須科目、"リトル・フィート"はもちろん聴いていた。私の場合大ファンであるヴァン・ダイク・パークスの参加という重要なファクターもあり、かなり真剣に接していた。名盤の声の多い『リトル・フィート』('72)や『デキシー・チキン』('73)など、奇抜なジャケットから興味を持った人も多いだろう。そして実際に聴いてみると、ヴァン・ダイクも、ジャケットも関係ない、理屈抜きに気持ちの良いサウンドが飛び出して来る...それこそがアメリカン・ロックの醍醐味だろう。

 その中心人物であるローウエル・ジョージ(g)は残念ながら'79年6月、ソロ・ツアー中に心臓発作の為にこの世を去っている。これはそのローウェルのトリビュート盤。
 おざなりなカヴァーの多いトリビュート盤だが、これは違う。参加アーティストはローウェルを除いたかつてのリトル・フィートのメンバーに、ボニー・レイット、タジ・マハル、J.D.サウザー、デイヴィッド・リンドレイ、ランディ・ニューマン、ジャクソン・ブラウン、アラン・トゥサンになんとヴァン・ダイク・パークスまで!(しまった!ヴァン・ダイク特集にこれ載せるの忘れた!)。信じられない超豪華メンバーがホンキでロックしている。ボニーとリトル・フィートによる「コールド、コールド、コールド」や、鬼才ランディ・ニューマンとヴァレリー・カーターの「セイリン・シューズ」など、オリジナルよりも良い!なんて書いたら顰蹙か?顰蹙だろうな(苦笑)。

 特に嬉しいのは日本から唯一参加の桑田圭祐のサウンドが非常に素晴らしいことだ。大体この種の企画に日本人が登場すると、そこだけレヴェルが低く「あ〜あ、がっかり」となってしまうのだが、桑田は違った。しっかしとしたヴォーカルと、渋いアレンジでたっぷりと聴かせた。見直したぜ鎌倉学園!(サダナリは隣の逗子開成)しかも日本人唯一の選曲が「ロング・ディスタンス・ラヴ」というのが...(涙)。
 そもそもこのアルバム、鎌倉に本社のある「カイガン・レコード」の企画、製作。バブルで無意味なジャパン・マネーとは一線を画した良質なミュージシャン・シップに感動した。

 そしてアルバムはローウェルの愛娘、イナラ・ジョージの「トラブル」で幕を閉じる。この曲のアレンジとプロデュースがヴァン・ダイク・パークス。感慨深い名演であった。




The Art Of The Trio, Vol.1
BRAD MEHLDAU (p)
WPCR-971 (Warner)


■ 台所で発見した、'90年代気鋭のピアニスト [ JAZZ]

 こんなページをやっていると「スイング・ジャーナル」を筆頭に「JAZZLIFE」や「ジャズ批評」、「ADLIB」あたりまで隈なくチェックして、さぞかし"ジャズ情報ジャンキー"の様な生活を送っていると思われているかもしれないが...申し訳ない。ジャズ喫茶でたまにつまみ読みをする程度。いずれももう何年も買っていない。毎月買っているのは「ミュージック・マガジン」のみ。年に数回、特集次第で「ラティーナ」を買う。これが当「サダ・デラ」の貧しい情報源であります。
 かわりといってはなんだが、ラジオはFM、AMとも人の何倍も聴く。BS、CSも観る。そしてなによりレコード店に足しげく通う。そして音や、空気でトレンドを感じているつもりである。

 このメルドーを知ったのは我が師、ピーター・バラカンのラジオだった。しかし彼がレギュラーでやっているFMではなく、ゲストで出ていたAMのNHK第一放送。確か日曜日の夕方に台所仕事をしながら聴いたんだったな(笑)。かかっていたのは4曲目の「ブラックバード」、ビートルズのカヴァーであるが、イントロのベースが、上昇形のコードが、本当に衝撃的だった。
 ジャズ評論家の美辞麗句なしにも、台所に置いたポータブル・ラジオからでも、このメルドーが素晴らしいピアニストであることは判った。たとえその上に、交通情報が重なろうとも、である。

 数少ないすっかりハマってしまった海外の若手ジャズメンである。以降アルバムが出る度に買い、いずれも愛聴盤。先日の来日は見逃してしまったのだが、いつか必ず生で聴こうと思っている。ともあれメルドーの「ブラックバード」は'90年代ジャズの名演のひとつである。




BUENA VISTA SOCIAL CLUB
BUENA VISTA SOCIAL CLUB
WPCR-5594 (NONESUCH)


■ 突如登場した至上の音楽 [ WORLD ]

 この'97年は渋めの名盤の多いなんとも嬉しい年であった。その極めつけがこの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』だろう。

 ある時はアメリカ南部、またある時はオキナワなど、世界の音楽を体現する異才ライ・クーダーが'90年代末に辿り着いたのはキューバであった。ヴォーカルのイブライム・フェレールは72歳、ギターのコンパイ・セグンドに至ってはなんと92歳!平均年齢70〜80歳代というキューバのミュージシャン達と奏でるのは至上の音、哀しいほどに美しい音楽であった。

 ベースになっているのはソンやボレロなどのラテンのフォーマットであるが、時間の止まった様なオーセンティックなサウンドには20世紀ポピュラー音楽の根源を観る思いもする。ゆったりとしたテンポの中に浮かぶのは、強い日差しのハバナの街角か。そこは'30年代も'50年代も、そして'90年代も超越しているのかもしれない。

 しかし世の中不思議なもの。この地味なアルバムが全世界で100万枚以上の売り上げを記録し、'97年のグラミー賞まで受賞してしまったのだ。そして遂にはかのヴィム・ヴェンダース監督がドキュメンタリー映画を撮るに至った!(日本公開は2000年新春)。
 以降の続編も秀逸で、中でも'99年にリリースされたイブライム・フェレールのソロ作品は傑作。CDに謳われた「キューバ音楽界の黄金の声」に偽りはなしであった。この2作品は、一家に二枚、常備すべし。





"LIVE"
Erykah Badu
UD-53109 (UNVERSAL)


"My Favorite Colors"
Junko Moriya
CRCJ-9141 (Crown)


"Dots And Loops"
STEREOLAB
7559-62065-2 (ELEKTRA)



 はいみなさん、Sonyグループに乗せられて、ローリン・ヒル聴いてますか?サダナリは聴いてません。だってSony製品ってカッコイイけど、すぐ壊れるんだもの(同社勤務の読者の皆様、御免なさい!)。かわりにエリカ・バドゥにハマってました。
 バドゥは'72年生まれの若手シンガー。この年、デビューアルバム『Baduizm』で話題をさらい、短いスパンで発表されたこの『Live』とその妊婦姿ででさらに話題をさらった。ローリン・ヒルはジャズ・ファンの鑑賞には耐えないと思うけれど、このバドゥーならOK。カサンドラ・ウイルソン(vo)を更にヒップにした感じ、と言えばいいかな。オープニングはマイルスの「So What」に合わせて♪Badu、Baduと来る。これには笑った。更にはUAファンにも強力にお薦め。アメリカにも子持ちでヒップな女性ヴォーカルがいるのだ。

 日本では−Sonyとかが持ち上げてくれないから−イマイチ、知る人ぞ知る的な存在のバドゥだが、アメリカではかなりの人気。映画『ブルース・ブラザース2000』でそのものズバリ、歌姫DIVAを演じたりもしていた。あの芝居からすると、実はかなりとぼけた人なのかもしれないなぁ。それにしてもこのアルバムをそっくり再現したという'98年の横浜公演...なんで見送ってしまったんだ!大後悔である。



 守屋純子さん(p,arr.)がアレンジしたバリトン4管によるライヴを観に行き、感動のあまり「私もバリトン吹きなんです」と自己紹介。ホームページの相互リンクなどでメールのやりとりも始まって...という話を古いジャズ仲間の女性(大学ジャズ研出身、カーラ・ブレイ(p,arr.)のファン)にしたところ非常に尊敬され、羨ましがられた。どちらかというと皮肉屋の彼女があれほど単純に「いいなぁ!」というのはめずらしく、ちょっと驚いた。
 彼女の様に探究心旺盛な女性アマチュア・ジャズ・プレイヤーからすると守屋さんは憧れの的。「守屋さんの様になりたい!」と願う女性は少なからずいる様だ。ピアニストにして斬新なアレンジャー、大学ジャズ研出身でOL生活のあと米国にジャズ留学、このアルバムでも演奏と同時にアレンジも手掛ける。こりゃアコガレて当然か(笑)。

 執筆活動も盛んで誌面では「ミニ・ビッグバンドのススメ」を力強く語る。このへんは不肖サダナリと完璧に指向が一致。サダナリ的にも気になるミュージシャンである。
 ありきたりのジャズを単純に演奏すること(それはそれで尊いことだが)にとどまらず、知恵を絞り、音を、アレンジを残す。その姿勢に感動した。そしてこのアルバムがその記録である。レコーディングはブルーノートの数々の名盤を生んだかの"ヴァン・ゲルダー・スタジオ"、エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダーその人である。

 方向性から言って大先輩、穐吉敏子さん(p,arr.)との比較がなされている様だが、ハードかつどことなくノスタルジックなアレンジにはむしろ'60年代のイタリアン・ジャズ、ピエロ・ウミリアーニ(p,arr.)楽団の雰囲気があった。狙ったものではないかもしれないが、うむ、意外にハード・スピリットの持ち主なではないだろうか。



 ああ、もう、なんだこのセレクションは?!正統派ジャズに続いては正統派亜流音楽。ステレオ・ラブというのは、テクノなのだろうか?ロックなのだろうか?それとも遅れてきたモンド・ミュージックなのか。意外に一番最後が近いような気もするが。

 寺山修司にインスパイアされたという前作、『トマトケチャップ皇帝』で名を馳せたステレオ・ラブだが、このアルバム、特に2曲目「ミス・モデュラー」の様な白昼夢感覚にヤラれた人も多いだろう。「みなさんがおとなになるころにはくるまはそらをとび、かぞくでうちうにゆけるでしょう」−子供の頃に見た無菌状態の二十一世紀を音で表現したのがこの『ドッツ・アンド・ループス』である。
 実際は全然そうなってなくて、車は相変わらず地面を這い、近所の第二京浜は渋滞気味、家族旅行も長野が精一杯。ウチの斜向かいの焼きとり屋じゃ、近所のオヤヂが立ち呑み焼酎でオダ挙げてる...けれどこのCDをかければそんな現実は姿を消し、中学生の頃にNHKで見た「少年ドラマシリーズ」のSFワールドだ!





・香港返還、神戸児童連続殺傷事件、ダイアナ元妃事故死
・北海道拓殖銀行業務停止、山一証券自主廃業で不景気痛感
・8月24日、趣味趣味ホームページ「サダナリ・デラックス」スタート!
・遂に情報発信を始めたが、代わりに楽器がおろそかに(31〜32歳)





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