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98/12/23
第六回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
ジャズ映画大特集
Jazz on the Screen Vol.1




2 まだあるぞ伝記映画








愛情物語

The Eddy Duchin Story

1955年 | アメリカ | 123分 | カラー

監督 : ジョージ・シドニー

音楽 : モリス・ストロフ | ジョージ・ダニング

出演 : タイロン・パワー | キム・ノヴァク

ビクトリア・ショア | ジェームズ・ウィットモア



■ 華麗なラウンジ・ピアノをハリウッドの魔術と共に

 '30〜'40年代に絶大な人気を誇ったピアニスト、エディー・デューチンの物語。雨宿りで知り合ったミュージジャンを頼りに、ボストンからニューヨークに出て来た薬科大学生・エディ(タイロン・パワー)。突然の押しかけに最初は冷たくもされたが、装飾音の多い特徴的な奏法で次第に人気を得て行く。さらに富豪の令嬢・マジョリー(キム・ノヴァク)の支援もあり、人気は絶頂に達した。
 エディとマジョリーは結婚。可愛い子供を授かるが、マジョリーは出産が元で死亡。これが原因でエディは複雑な心理状態に陥る。「子供を生まなければマジョリーは死ななかった」と、可愛い筈の自らの子供を責めるのだ。エディは唯一残された大切な筈の子供・ピーターを里子に出し、数年間も逢おうとはしなかった。ある日、意を決して逢いに行くが、二人の間はぎごちない。後半はこの2人の関係が主題となる。

 太平洋戦争に参戦、終戦後ニューヨークに帰ってみると、ピーターは元気な男の子に成長していた。母親がわりはチキータという名前の美しい女性。さらにピーターはエディそっくりのスタイルでピアノを弾いて見せた。3人の心は次第にひとつになり、エディとチキータは再婚。新しい幸せな家庭が出来たかに見えたが、エディは白血病に倒れる...。

 若い方は御存知ないかもしれないが、この作品、タイトル曲、エディー・デューチン、タイロン・パワー、キム・ノヴァク、そしてピアノの吹き替えを担当したカーメン・キャバレロのいずれも、年配の方には非常に有名なのだ。有名というよりも「親しみのある」と言った方が正確か。かつて人々が愛していた、いにしえの「ポピュラー・ミュージック」を扱った映画である。親に教えられて私も昔から知っていた。

 音楽のスタイルはスィングでもビ・バップでもモダンでもない、ホテルのラウンジで演奏されているようなもの−ラウンジ・ピアノまたはカクテル・ピアノと呼ばれるもの−だが、正直に告白すると私はこういうサウンドも大好きである。
 硬派なジャズに比べると、ラウンジ・ミュージックは格下に見られる傾向がある。特に「紐付き」と言われるウィズ・ストリングスものなど蔑視すら受ける。冗長な「ムード音楽」だというのだ。偏見だなぁ。「楽しい音楽」のどこがいけないのだ!(サダナリ怒る)。
 劇中に登場する「愛情物語」(ショパンのノクターンをジャズ風にアレンジしたもの)、「明るい大通りで」、「ブラジル」などは「一般常識」として知っておく必要があるぞ。ともかくこういう音楽を知ってるか、いないかで音楽に対する幅のようなものがグっと違ってくるのだ。
 それだけを抜き出して、'90年代の日本で聴けば確かに冗長かもしれないが、こういう時代に、こういう人達が愛していたサウンドなのだなと理解することは重要である。

 お説教はこれくらいにして作品評。典型的なハリウッド調の音楽メロ・ドラマではある。しかもタイロン・パワーの表情、アクションが大袈裟で、ちょっとクサみもある。しかし、ストーリーに無駄はないし、1回は観ておいた方がいい作品だろう(レンタルして来て観ていると「なんでまた突然こんな作品を」ときっとご両親が驚くぞ)。ピーター役の子役も活き活きとしている。なによりも2人の心が近づいてゆくのが「ピアノを通じて」であるところが素晴らしい。

 この映画、非常に貴重なシーンがある。ピアニストであるエディが兵士として参戦し、駆逐艦で指揮をとるシーンだ。ミュージシャンの参戦シーン。観たくない構図である。エディは生きて帰れたけれど、こうして死んでいった、あるいは駄目になった天才たちは数々いるのだろうな。例えば、レスター・ヤング(ts)とか...。
 続けて映るのがアジアのどこかに上陸した彼が、焼け跡の街で黒こげのピアノを見つけ、現地の少年と一緒に弾くシーン。アメリカ兵も現地人も、楽しいピアノを聞きつけて黒山の人だかり。最後は大喝采となる。大甘ハリウッド映画のように見えて、こうした演出は一筋通っている。その少年が不器用にウインクするシーンが最高であった(笑)。

 ビデオで見直すと...まぁ確かにクサイ部分は目立つが(苦笑)、「いい映画を観たな」というほんわかとした気持ちも残る。ハリウッドの魔術に酔うもまたよしだ。






夜も昼も

Night And Day

1946年 | アメリカ | 128分 | カラー

監督 : マイケル・カーティス

音楽 : レオ・F・フォーズスタイン

出演 : ケーリー・グラント | アレクシス・スミス

モンティ・ウーリー | ジミー・シムズ



■ いつみても波瀾万丈、コール・ポーターの生涯

 名門・イェール大学生のコール・ポーター(ケーリー・グラント)は学業よりも音楽に夢中だ。母校の応援歌も作曲、これが実にユーニクな曲なのだ。結局、大学は中退。作曲家兼ピアニストとしてニューヨークに進出するが、最初は芽が出ない。
 秀作を次第に発表するが、時代の波に飲まれ第一次大戦に出征。野戦病院の看護婦となっていたリンダ(アレクシス・スミス)と結ばれる。自らの作曲した「ビギン・ザ・ビギン」の初演のオーケストラ演奏を、野戦病院のベッドの上で電話ごしに聴くシーンが良かった(記憶ニアヤシイ部分アリ)。
 しかし災難も多い人である。戦争時に足を負傷、狩の途中で銃が暴発、そして落馬ともう全身ボロボロである。最後は母校・イェールでの公演。講堂に現れたポーターは松葉杖で、さらに全身を引きずるような状態であった。多忙さゆえに冷えきっていたリンダとの仲も同時に蘇る、というエンディングであった。

 数年前、銀座で行われた「MGMミュージカル特集」で観た。メモも資料もなく、ビデオも出ていないようなので細部が不確かで恐縮なのだが、なんか、タイヘンな映画だったよ(笑)。
 サックスなどを演奏していると、度々出会う「作曲・コール・ポーター」という名前。一体どんな人なのかと興味津々で出掛けると...なんとも災難の多い人なのだった。
 しかし、いかに音楽が好きなのかと、溢れ出るばかりの才能についてはよーく伝わって来た。タイトルとなった「夜も昼も−ナイト・アンド・デイ」に始まり、「ビギン・ザ・ビギン」、「恋とは何でしょう」など、ポーター作の名曲が30曲以上楽しめる。
 『愛情物語』の解説と同じになってしまうけれど、いまやちょいダサと思われている「ビギン・ザ・ビギン」も、あの映画で聴くと「いい曲だなぁ」と痛感する。判りやすいメロディーと、ウキウキするようなエキゾチック・アレンジ。フリオ・イグレシアスで有名な甘ッタルイ曲という認識は誤りなのだ。

 主演は名優、ケーリー・グラント。ポーターのちょっと無茶する感じを巧く演じていた。そしてリンダ役のアレクシス・スミス、これはよーく覚えている。超々美形なのだ!。なんか、あまりの美しさに、ぼ〜っとしながら観ていたなぁ(笑)。
 細部は忘れたといいつつ、ラスト・シーンで号泣してしまったことは覚えている(苦笑)。ハンディを持ったポーターの描写は、いかにもお涙頂戴だったけれど、そこに彼の名曲が重なって...不覚にも、コロっとヤラれてしまったのだ。






アメリカ交響楽

Rhapsody In Bule

1945年 | アメリカ | 139分 | モノクロ

監督 : アーヴィング・ラッパー

音楽 : レオ・F・スタイン | レイ・ハインドルフ

出演 : ロバート・アルダ | ハーバード・ラッドレイ

アレクシス・スミス | ジョーン・レスリー



■ 偉大さ痛感、ジョージ・ガーシュインの記録

 今回紹介する作品の中で最も古いものである。'45年製作の『アメリカ交響楽』は、アメリカが生んだ最高の作曲家、ジョージ・ガーシュイン(1898-1937)の生涯を描いた大作。ガーシュインとジャズ、というのは直接的には結びつかないかもしれないが、彼の曲は今でも人々に愛され、その曲をカヴァーしたジャズ・メンは数え切れない。

 質素に暮らす「ガーシュイン・タバコ店」の息子、ジョージ(ロバート・アルダ)は母親が買ったピアノに夢中になる。この母親、裕福とは言えないながらも「子供たちのために音楽は必要」と一大投資をしてピアノを買ったのだ。こういう勇断が大作曲家を生んだのだな。もっとも本当はジョージではなく兄のためで、ジョージは横取りして弾いていたのだが。下町のアパートに運び込まれるピアノに、近所の人々が大騒ぎする場面が微笑ましい。
 ジョージはピアノを習熟。楽譜店(当時は「音楽」を楽しむことは、レコードではなく楽譜を買うことだった。その楽譜店街の名前が「ティン・パン・アレイ」である)のピアノ弾きとなるが、出来合いの曲には満足せず、自らの作曲を披露する。曲は現在でも親しまれている「スワニー」。これを世紀のエンターテイナー、アル・ジョルソンが歌い大ヒットを収める。

 ジョージの才能は留まるところを知らない。ジャズ草創期の名オーケストラ、ポール・ホワイトマン楽団の依頼で発表した「ラプソディ・イン・ブルー」は歴史的名曲と評された。そのほかにも「パリのアメリカ人」、「ス・ワンダフル」、「誰かが私を愛している」、「ポギーとベス」、「サマー・タイム」、「アイ・ガッタ・リズム」等々、誰でも知っている名曲の数々がたった一人の人間によって創られたという事実に驚嘆するばかりだ。
 ヘンな話だが、画面が異常に古いのに、流れて来る音楽が今でも頻繁に聴くものばかりで、そのアンバランス(?)からも彼の先進性、そして偉大さが感じられるだろう。

 しかし、ジョージを待ち構えていたのは病魔であった。最高傑作ともいわれる「ポギーとベス」発表後、彼は演奏中に倒れその短い人生を終える。彼の訃報を受けて奇しくも「追悼演奏会」となってしまったホワイトマン楽団の公演でエンドマークである。

 そんなガーシュインの生涯を非常に丁寧に、曲にまつわるエピソードや、楽典的な特徴も含めて描いている。ただ丁寧すぎてちょっと長い(笑)。しかし、なんでジャズ系の伝記映画ってこんなに長いのばっかりなのかな(苦笑)、演奏シーンが入るせいかもしれないが...。
 この映画の見どころはなんといっても、登場する脇役達を本人が演じているというところだろう。前述したポール・ホワイトマンも本人出演、ホワイトマン楽団も実際のメンバーである。そしてなによりも貴重なのは、「スワニー」を歌うアル・ジョルソンの姿だろう。彼の名唱名演には眼が釘付けになるはずだ。
 本物達に囲まれてガシュインを演じるロバート・アルダは、それなりに「ひらめき」を感じさせる快演であった。なによりも表情が明るくて良い。

 マジメな事を書くとこの映画、アメリカ・ポピュラー音楽史の貴重な記録でもある。ティン・パン・アレイの音楽出版社に始まり、ジョルソンに代表される舞台歌手の活躍、ホワイトマンの様なポピュラー・オーケストラ、そしてラジオに乗ったヒット曲、現代風のミュージカル演出に至るまで、ポピュラー音楽がどう変遷してきたか、ヒット曲はどこから生まれたかが手に取るように判る。しかもそれを本人達が演じるのだ。貴重なり。ただ長いので辛いなぁ..。

 奇しくもラスト3作は「ポピュラー音楽史」的な映画が続いた。ハードバップやソウル・ジャズの追求も結構だが、こうした作品を楽しむ心の余裕のようなものを忘れないで欲しいとも思う、のココロ。我々の音楽は彼らの上に成り立っている。






■ その他の伝記映画 ■


 以下、未見の伝記映画について。まず有名なのは『ビリー・ホリデイ物語』('72年・米)か。最も伝説的な女性シンガー、ビリーを演じたのはロックのダイアナ・ロス。彼女の起用には賛否両論渦巻いたらしいが、オスカーの主演女優賞にもノミネートされた。では名演だったかというとやはり賛否両論。研究熱心を讃える声もあれば、テンションの高さを嘆く声もある。しかも物語は成功談で終わっているらしい。彼女の伝説を映画化するのは色々な意味で困難だったのかもしれない。いずれにせよ、機会があれば観てみたいと思っている。

 "ブルースの父"と言われるW.C.ハンディの生涯を描いたのが、その名も『セント・ルイス・ブルース』('58年・米)だ。ハンディ役はナット・キング・コール、トランペッター兼作曲家で歌も歌うハンディを、ピアニストで芝居も出来、歌は天才的というナットが好演した...らしい。キャブ・キャロウェイ(vo,cond)や、マヘリア・ジャクソン(vo)、エラ・フィツジェラルド(vo)なども出演してなかなか楽しい作品になっている模様。これも観たいな。

 『アメリカ交響楽』で紹介したアル・ジョルスンの伝記映画、『ジョルスン物語』('46年・米)もある。ジョルスンを演じたのはラリー・パークス。歌の吹き替えは本人がやっている。ヒット曲満載のお楽しみ映画で、当時非常にヒットしたそうだ。レンタル店でたまに見かける。
 自分の伝記を自分で演じてしまったのが『ドーシー兄弟物語』('47年・米)のトミー(tb)&ジミー(as)兄弟だ。仲の悪かった2人が父の死で結束し、音楽で成功して行くという物語。実はこの作品、上記の『ジョルスン物語』のヒットで気を良くした監督のアルフレッド・E・グリーンが、「二匹目のドジョウ」的に作った作品らしい。しかし、アート・テイタム(p)や、ジギー・エルマン(tp)の熱演もあり、ジャズ的には見どころのあるものの様だ。

 おっと、これを忘れてはいけない。『ドラム・クレイジー〜ジーン・クルーパ物語』('59年・米)もある(日本未公開か?)。『グレン・ミラー物語』や『ベニー・グッドマン物語』など、ゲスト出演しまくりのクルーパだが、自らの伝記映画出演は遠慮した模様。クルーパを演じたのはドミニカ出身の当時22歳、サル・ミネオだった。しかしこの配役がアダとなって、なんとも小粒なクルーパになっているらしい。クルーパのショーマンシップを若手俳優に再現させるのは困難だったようだ。契約の問題から登場人物にも難があり。難しい作品である。
 それよりもクルーパと言えば!伝記ではないが『1937年の大放送』という音楽コメディが観たい!政府の方針による「ジャズ演奏禁止」が施行される前夜の、大ドタバタ騒ぎを描いた傑作らしい。かつてお世話になったジャズ喫茶のマスターに教えてもらった。奥さんも「あれは傑作よ〜」と言っていた。観たいのだ!。









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