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98/10/31
第六回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
ジャズ映画大特集
Jazz on the Screen Vol.1




1 まず必見の伝記映画ベスト3








5つの銅貨 レッド・ニコルス物語
The Five Pennies (1956 米 カラー 117min.)

 
スタッフ
 

監督
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メルビル・シェーベンソン
音楽
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. .リース・スティーブンス

 
キャスト
 

レッド・ニコルズ
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. . . . . . . . . . ダニー・ケイ
ボビー(ウェラ).
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. .バーバラ・ベル・ゲデス
特別出演. . . . .
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. . ルイ・アームストロング
〃  . . . . . . .
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. . . . . . . ボブ・クロスビー
〃  . . . . . . .
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. . . . . . . レイ・アンソニー
〃  . . . . . . .
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. . . . . . . . .シェリー・マン
〃  . . . . . . .
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. . . .ピーナッツ・ハッコー

 




■ 大推薦!笑って、泣いて...ダニー・ケイに酔う

 1929年、ユタのド田舎からニューヨークに出て来たコルネット奏者レッド・ニコルズはホテルのバンドで吹き始める。大都会での初めての晩、仕事の後に出掛けたモグリ酒場で、生まれて初めてのアルコールを飲む。したたかに酔ったレッドはステージに乱入、果敢にも演奏中のサッチモにコルネットで挑むが、悪酔いして観客の失笑を買う。しかし酔いを醒まして再挑戦、最後は大喝采であった。
 そして同席したコーラスガールのウェラと恋に落ち、2人は結婚する。このスピーク・イージー(モグリ酒場)のシーンは本当に面白い。多分、ここまでの僅か10数分ですっかりこの映画に魅了されている筈だ。

 いけすかないバンド・マスターを殴り飛ばし、レッドは職を失う。「僕のパンチは2人分さ」というレッド、結婚初日で2人とも失業してしまった。
 生活のためラジオの仕事を渡り歩くレッドだが、これもまた大騒ぎである。エスキモー姿で右手にコルネット、左手に鈴。最初はおとなしく流行歌手の伴奏を務めるが、突然ジャズ風のアドリブでバクハツする。場内爆笑、その場でクビ。ハワイアン・バンドでも、ロシア民謡でも同様の失敗をしでかし生活はままならない。いやー、このシーンも最高だ!どの設定、どの失敗も爆笑である。コサック姿でロシア民謡を唸りながらおどけ、踊りながら超絶フレーズを吹くなんて、一流のエンターティナーであるダニーにしか出来ない芸当だろう(コルネットのみ吹き替え、歌は本人)。解説で詳しく書くが、この映画、他のジャズ映画とちょっと違うのだ。
 苦労続きのレッドだったが、新妻ウェラは強かった。カフェでクダを巻くグレン・ミラーやジミー・ドーシーらにレッドのアレンジ譜を渡し、「あなたたちとは違う!」と怪気炎を上げる。苦笑いしていた彼らだが、譜面に目を通すと...洗練されたデキシー・サウンドで、これが実にユニーク!彼らをメンバーに「レッド・ニコルス&ファイヴ・ペニーズ」の結成と相成った。

 他に例のないレッドのサウンドは大人気を博し、全米の大学パーティーなどにひっぱりだこだ。そんな最中、初めての子供が誕生。可愛い女の子であった。しかし依然、旅暮らしは続いた。子供の誕生を期に「ニューヨークに落ち着く」と言っていたレッドだが、なんともままならない。深夜までにぎやかなジャズ・メンの生活も問題があった。5歳になった娘・ドロシーはすかっり彼らのペースに巻き込まれてしまったのだ。
 深夜のジャズ・クラブで再びサッチモと共演、今やレッドも大スターになっている。そしてドロシーも一緒だ。子供の教育上は極めてよろしくないが、音楽的にはこのシーンも素晴らしい。なんといっても演じているダニー本人の歌でサッチモと張り合ってしまうのだから!
 ツアーの契約を取り続けるレッド、遂にドロシーは寄宿舎に入れられてしまった。父はバンド・リーダーとして、母は専属歌手として人気絶頂だが、そのために彼女はクリスマスの晩でさえ一人で過ごさなければならなかった。皮肉にもラジオからは父親の歌うクリスマス・ソング。そしてドロシーは脊髄生小児麻痺(ポリオ)に倒れる。彼女を見舞った病院の帰路、レッドは愛器のコルネットを金門橋から投げ捨てた。医者の言葉は「ドロシーは一生歩けない」だった。

 音楽をやめ、造船所で働くレッド。ドロシーの介護とリハビリに必死だ。彼女の14歳の誕生日、友人を集めてのパーティー。このシーンが後半のヤマ場であるが、辛いシーンでもある。「ベニー・グッドマン、ジミー・ドーシー、グレン・ミラー、ジーン・クルーパ...みんなパパの楽団にいたのよ」という母親の言葉に半信半疑のドロシーと友人達。そこにレッドが帰宅する。心ない彼らの言葉の数々、嘲笑はともかく「売れているうちにやめて正解」という言葉には「何がわかる!」と怒りを露(あらわ)にした。引退の本当の理由は、ドロシーなのだ。彼女はそれを知らない...。

 ウェラが仕掛けた食事の席で、久々にドーシー兄弟に会う。「引退して悠々自適」と嘘をつくレッド。帰宅後、ドロシーがやっとかつてを思い出して父に言う。「昔を取り戻すのは大変なの?」。レッドが、再び、楽器を手にする。

 猛練習を重ね、地元のクラブでカムバック・ステージが行われた。閑散とした店内にサッチモを先頭にした昔の仲間たちが演奏しながらやってくる。たちまち場内は満員に。そしてステージのレッドにウェラが「後ろを向いて」と言う。レッドが正面に向き直ると...「踊って下さる?」、杖なしで立つドロシーがいた。ウェラの歌う「ラグタイムの子守歌」に合わせて踊るレッドとドロシー。そしてあの、ニューヨーク初めての晩に演奏した「聖者の行進」を奏でて陽気にエンド・マークである。


Louis Armstrong & Danny Kaye

in ' The Five Pennies '


■ かいせつ

 困ったな。あまりに素晴らしすぎて、どう紹介すればいいのか(苦笑)。成功、断念、復活の物語である。「娘の難病をネタにした、お涙頂戴話」という穿(うが)った意見もあるが、それはかなり的外れだと思う。

 まずはジャズ的な視点から観てみよう。脚本はジャズ・メンとして生きて行くことの厳しさと、プレイヤーとしてのプライド、といった非常に微妙な問題を見事に描いている。
 印象的なシーンは数知れず。前半ではそれを笑わせて見せている。最初のバンドを飛び出したレッドが、楽器片手の渡り鳥、ラジオの仕事を次々とこなしては失敗し、クビになるくだり。アロハ・シャツでハワイアンを、エスキモー姿でロシア民謡を...どんな格好をしていてもいつも彼の手にはコルネットが握られていた。この分身のようなコルネットが彼の、そして愛妻の生活を支える命綱なのだ。このミュージシャン・シップにまずグっと来た。しかしどのバンドでも抱腹絶倒の大失敗をやらかしてクビになってしまうんだけれど(笑)。どんな失敗かは観てのお楽しみである。爆笑間違いなしだ。

 しかし後半、娘の介護のためにジャズ・メンを廃業し、造船所に勤めるあたりのエピソードは笑っていられない。造船所を訪れたグレン・ミラー楽団が「レッド・ニコルス楽団時代の曲です」といいながら「インディアナ」を演奏する。群がる同僚たちの間を縫って、家路を急ぐレッド。「聴かないのかい?」と聴かれて、暗い表情で一言「昔、聴いた」...。
 多少楽器を齧った人間ならば、グサリと胸を突かれる本当に辛いシーンだ。この2つのキャラクターを主演のダニー・ケイは見事に演じている。超名演である。

 父と娘、そして母の物語として観ても実に感慨深い。寄宿舎の話をするあたりから、娘は父に不信感を抱く。小児麻痺に倒れた時も、見舞いに来た両親に対して「お母さんだけ残って」と告げるのだ。父と娘の溝。それが埋まるのは実に十数年後、「昔を取り戻すのは大変なの?」と言う晩まで待たなければならなかった。このあたりの心理描写が実に巧い。
 ラスト・シーンでの.「踊って下さる?」は涙なしには観られないが、実は2人が踊る場面はこの前に(伏線として)1回あるのでご注意。よく出来ているなぁ...。

 とにかく素晴らしい脚本で、明らかに単なる音楽映画を超えている。ジャズ・ファンならずとも深い感銘を受ける筈だ。ジャズ・ファンには家族の絆や父性愛の尊さを教え、映画ファンにはジャズ音楽の楽しさを教える...そんな作品なのかもしれない。

 15年も経ち、もう時効(?)だから書いてしまうが、この映画を最初に見たのは浪人1年目の梅雨ごろであった。降り続く雨の中、どうしても予備校に行きたくなくて、「ぴあ」を買って高田馬場の名画座に飛び込んだ。前半は大爆笑、後半は涙が止まらなかった。「あぁ本当にいい映画を観た、本当に予備校をサボって良かった」と思った(笑)。まぁ、その年にそう思わせた映画は、ほかにもXX本くらいあるのだが(笑)。


■ ジャズ・ファンの目

 完璧である。顔は似ていないが、そんなものは関係ない。なにしろ主演のダニー・ケイは歌って、踊って、笑わせて、泣かせる、歴史的なエンターティナーなのだ。「レッド・ニコルス本人よりも魅力的に演じた」などという失礼な(?)レヴューも見かけたことがある。
 歌はダニー本人、コルネットの吹き替えはレッド本人。楽器の扱い方にも違和感はない。ダニーの音楽的才能の素晴らしさはストーリー紹介で書いた通り。『グレン・ミラー物語』のジェームズ・スチュアートが俳優としての「職人技」でグレンを演じきったとすれば、この作品でのダニーはもう少し音楽寄り、ミュージカル・エンターティナーとして演じきったという感がある。アプローチは異なるが、いずれも魅力的な「主役」であった(しかし、そう考えるとスティーブ・アレンのグッドマンてのが「似てるだけ」ってことになっちまうんだよな。そこがあの映画の限界かもしれない...)。

 魅力のゲストはサッチモことルイ・アームストロング(tp,vo)。前半、中盤そしてラストで登場。最高の芝居で楽しませてくれる。ドラマの素晴らしさは前述の通りだが、音楽的にも実に面白い。まずはサダナリ好みのヘンなコダワリ(笑)、ラジオの仕事を渡り歩くシーンで演奏している曲が、良く聴くと全て「インディアナ」なのだ(笑)。アラスカ風、ハワイアン、カナディアン風、ロシア民謡だと思っていた曲も実は「インディアナ」、よく聴くべし。その他にも同じ曲が要所々々で何回も出て来て、というのは演出上のキーになっており、これが非常に効果的である。よーく聴くべし。
 レッドのスタイルが「ニューヨーク風デキシー」なのも面白かった。古い様で新しい、なんとも不思議なサウンドなのだ。ペットではなくあくまでコルネットにこだわるレッドの姿勢も良かったな。「博物館に行くと恐竜の横に置いてある」なんていいながらね(笑)。

 劇中で歌われたオリジナル曲「ファイブ・ペニーズ」と「ラグタイムの子守歌」も素晴らしかった。歌はもちろんダニー・ケイとバーバラ・ベル・ゲデス。私が生まれた時から、我が家にはこの曲の日本版オリジナル・シングルがある。サダナリ家で最も価値のあるお宝レコード。父親の形見である、あ、まだ生きてた(笑)。


'ファイヴ・ペニーズ / ラグタイムの子守歌 '
ダニー・ケイとバーバラ・ベル・ゲデス

キング・レコード LED-140

(実は"FM長野"に貸し出したことがあります)









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