99/08/24 第四回 ヴァン・ダイク・パークスを 発見せよ! 日本唯一の徹底研究ページ |
■ Van Dyke no Live - Live Revew ■
Van Dyke Parks & The Discover Arerica Orchestra
Japan Tour 1988
奇抜なオーケストラが、カリプソが、目の前で |
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1988年 初来日公演 |
ヴァン・ダイク・パークスがやって来る−信じられませんでした。なにしろ寡作の人で、活動もちょっと神秘的、'80年代後半の日本の地を踏んで、人前で演奏をするなんて妙な話、実感が沸かなかったんです。 しかし、やって来ました。1988年7月、アメリカから連れて来た7人に、日本から参加の9人を足して総勢16人+ヴァン・ダイクの"ディスカヴァー・アメリカ・オーケストラ"で3日間にわたり大規模なライヴを行ってくれました。 私が観たのは最終日にあたる7月8日の中野サンプラザ。チケット発売日にがんばって購入したので席は最高。1階4列目中央で、前がミュージシャンのホッピー神山(元PINK)だったことを覚えています。 まずステージが、ユニークでした。フロントは左からヴァン・ダイク、ヴォーカルのシド・ストロー、そしてハーモニカのトミー・モーガンの3人。左側にキーボードとスティール・ドラム、右側にはストリングスとブラスが陣取り、ハープ奏者までいます。ベースは細野晴臣、そしてステージ後方にはパームツリーが何本も...。 5年前に発表された『ジャンプ!』中心の内容になると思いきや、オープニングは映画音楽風の静かな新曲でした。続くフォスター風の2曲目ではなんと日本語で歌い場内を驚かせていました。この2曲がこの翌年、『トーキョー・ローズ』に収録され「アメリカ」と「ワン・ホームラン」となりました。ちなみに「ワン・ホームラン」の歌詞とアレンジは微妙に変わっており、この時のライヴ・ヴァージョンの方が絶対的に良かった! 4曲目の「ジャンプ!」から数曲、同名アルバムからの演奏が続きました。待ちに待った「ジャンプ!」のイントロが聴こえて来た時に、恥ずかしながら落涙してしまいましたよ。ヴァン・ダイクを追い続けてこの時すでに5年以上、まさかナマで聴けるとは思っていなかったので...。 『ジャンプ!』からの曲をひとあたり演奏すると、ヴァン・ダイクはピアノを離れストリングスのところに。自らアレンジした「ガーシュインの子守歌」を指揮します。流麗なカルテット演奏のあとは、一転、ヴァン・ダイクが多大な影響を受けたという19世紀の作曲家、ルイ・モロウ・ゴットシャルクの「ナイト・イン・ザ・トロピックス」で盛り上がりました。 昭和天皇の前で演奏したことがあるというハーモニカ・プレイヤー、トミー・モーガン(ビーチボーイズの「グッド・ヴァイブレション」にも参加)をフィーチャーした曲などを挟み、終盤は大トロピカル大会。『ヤンキー・リーパー』からの懐かしいナンバー「アナザー・ドリーム」ではゲストのヤン富田がスティール・ドラムで熱演。ちょっと自嘲的な「ヤンキー・ゴー・ホーム」で一旦終了となりました。 さて、アンコールの時にちょっとハプニング。この翌日、誕生日になる細野晴臣の為にヴァン・ダイクのリードで会場も含めた「ハッピー・ハースデイ」の大合唱となりました。あとで読んだ記事によるとこれは細野氏本人には知らされていなかったそうで、会場も巻き込んだ「サプライズ・パーティー」で驚かせようという企みだったそうです。 アンコールはフォスターでした。「Hard Times, Come Again No More」、この翌年に発表された矢野顕子のアルバム『ウェルカム・バック』でも採り上げられていたので、ご存じの方も多いでしょう。フロント・アクトを務めたシンガーのダグ・レガシーも参加して、古き良きアメリカン・フォークで幕を閉じました。 |
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この初来日は同時にヴァン・ダイクの初コンサートでした。本国アメリカでは小規模なライヴだけを行い、200人以上の前で演奏するのはこの時が初めてだったそうです。初日の楽屋では"I'm
scared !"と気弱になっていたらしいですが、私の観た最終日は落ち着いて、楽しそうに演奏していました。 プログラムには黒船とペリーの絵が載せられて、曲も含めて「文明開化」のイメージがあちこちに用いられていました。そして、誰が教えたのか曲の合間には"Son-Nou-Jou-I !"−「尊皇攘夷」とつぶやいたりもしていました。その度に会場は笑ってしまう。一体なんのことやら...。 演奏は、素晴らしかった!なにしろ編成がユニークなので、出てくる音も面白くて。ミュージシャンも良かったです。前述の細野晴臣やヤン富田の他、ドラムに当時話題を呼んでいた日系ジャズ・プレイヤーのタナ・アキラ、サックス&フルートはこの「サダ・デラ」でもお馴染みの菊地康正さんでした。 この時私は22歳で大学生。ひたすら毎日ロックの日々でしたが、まるで奇抜な映画音楽を再現するかの様なヴァン・ダイクのステージを「アレンジを究めるとこうなるのかなぁ」と感慨深い思いで聴いていました。数えきれないほど観たライヴの中でも、とびきり不思議で、印象深いものとして記憶に残っています。 |
■ Live Data ■
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原稿作成にあたり、ディスカヴァー・アメリカ・オーケストラのメンバーを務められた菊地康正さんに多大なご協力を頂きました。ありがとうございました。 |
Van Dyke Parks Live in Japan 1999
無垢で無邪気な永遠の現役選手 |
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1999年 最新来日公演 |
そして11年の時間を経て、ヴァン・ダイクがまた東京にやって来ました。会場は六本木のジャズ・クラブ「スィート・ベイジル」。ジャズ・クラブといっても客席は二階建てでステージも巨大、ちょっとしたホールほどの大きさがあります。火曜日から日曜日まで6日間、入れ換えも含め実に11ステージも演奏。60歳を目前に、俄然元気なヴァン・ダイクでした。 日によっては空席もあったらしいですが、私が観た最終日は超満員。ジャズクラブなので座席は入場順、早めに行ったのが功を奏しヴァン・ダイクの真正面、最前列で観ることが出来ました。本人まで、わずか2、3m。演奏中に何回も目が合って、観ているこちらが緊張してしまった(笑)。 構成は'98年発売のライヴ・アルバム『ムーンライティング』に則したものでしたが、来日メンバーは大胆なドラムレスのトリオ編成。ギターのグラント・ガイスマンはジャズ・フュージョン系のミュージシャンで、自らのリーダー作品の他、クインシー・ジョーンズや在米の日本人ジャズプレイヤー、松居慶子(key.)のアルバムにも参加しています。ベースはリーランド・スクラー、この人は超ベテランのセッションマンで、CS&Nからトーマス・ドルビーまで、もうなんでもやっている。ちなみにスクラーも松居慶子のアルバムに参加しています。 ステージ左にキーボードとヴァン・ダイク、あとの2人も椅子に座り、11年振りのライヴは「Jump !」でスタートしました。続いて「Oppotunity For Two」、いずれもアルバム『Jump !』に収録されたオーケストラ・ナンバーですが、この編成で聴いても、これがイイ! 「ストリングスがいないんじゃぁ...」と落胆していたのですが、ストリングス・アンサンブルをそっくりピアノで演ってしまうんだな、これが。そしてギターもベースもグっとハマっている。ヴァン・ダイク・サウンドの骨格をはっきりと知ることが出来て実に良かったです。11年前と違い、私が小編成のジャズ演奏に傾倒しているので特に楽しめたという感じもします。 3曲目「オレンジ・クレイト・アート」からは'95年発表の同アルバムからのナンバーが続きました。アルバムではブライアン・ウイルソンが歌っているので、作者ヴァン・ダイクのヴォーカルで聴けるのはここだけという贅沢なパフォーマンスでもあります。ロス・アンジェルスの雨の歌「Wings Of A Dove」の後には渚ゆう子の名曲「京都の雨」を突如ピアノで演奏、客席を沸かせました。そして「素晴らしいカルチャーだね、忘れてはいけない」と一言。 そして!中盤のヤマ場、名盤『ディスカヴァー・アメリカ』の「FDR in Trinidad」を、この編成で、実にネバっこく演奏。心臓がバクバク言う程、エキサイティングでした。 『ムーンライティング』と同じ、「DANZA」や「The All Golden」などが続き、終盤、まさかの「英雄と悪漢」!ここで場内熱狂。この半月後に行われたブライアン・ウイルソンの来日公演ではこの曲は演奏されなかったので、ヴァン・ダイクを観た人だけのプレゼントとなりました。 お得意の「Night In The Tropics」で一旦退場しますが、アンコールが...ああ、思い出しても涙が出る。まずいきなり「ドノヴァンズ・カラーズ」をヴォーカル入りで演奏。そして続けて「セイリン・シューズ」。ヴァン・ダイクの音楽歴をパノラマの様に眺める感じです。 この1回目のアンコールの後が、大変でした。ヴァン・ダイクは、もう、超上機嫌で、ステージを降りてバンザイをしながら客席を一周。残りの2人がブルース・ブラザースのテーマを演奏し、観客は全員アップテンポの手拍子をしています。私は一番最初に握手をしたので緊張のあまり控えめにしましたが、最後の方では抱きついている人もいたなぁ。 アンコール2回目、『ヤンキー・リーパー』からの「アナザー・ドリーム」でステージは終了。ヴァン・ダイクはやはり上機嫌で、飾られた花を一輪手に取り、最前列の女性(実は私の連れ)に両手でプレゼントしました。ここで場内大喝采。本当に、いいライヴだった...。 さらに、おまけつき。終演後しばらくして、再び客席に登場。空いている席に座り、突然のサイン会となりました。サインに備えてのアナログ盤持参のファンが列を成し、ヴァン・ダイクは差し出された全てのアルバムに時間をかけてサインをしていました。 不肖サダナリは、ちょっとヒネって'88年のコンサート・プログラムを持参(アルバムやCDはみんな持って来ると思ったので)。「コレハ11年マエノぷろぐらむデ、11年マエモワタシハ観テイテ、コンヤモ観テ、感動デシタシマシタ」というつもりの英語を話しました。そこで貰ったのが先頭ページにあるサインです(普段は額に入れて飾ってあります)。握手の時に、さすがに手が震えた。 古いプログラムにはヴァン・ダイクも喜んでくれたけれど、中には一緒に写真を撮っている人もいたりして、カメラを持って行かなかったのは不覚だったなぁ...。 |
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本当に楽しそうに演奏をして、ファンの中に無邪気に無防備に飛び込んで行く。色々なことがあったけれど、今はものすごく幸せなんだろうと思わせるライヴでした。 とにかくドラムレスのトリオですから、ヴァン・ダイクのピアノがイヤって位に良く聴こえる。独特のメロディーは勿論のこと、ヴァン・ダイクのリズム(かなり変)、ヴァン・ダイクのコード(とても変)、ヴァン・ダイクの手グセ(これも変)を堪能しました。 構成も最高でした。『ソング・サイクル』収録の「オール・ゴールデン」から『ディスカヴァー・アメリカ』の「トリニダッドのFDR」、『ヤンキー・リーパー』からの「アナザー・ドリーム」、そして『ジャンプ!』や『トーキョー・ローズ』、『オレンジ・クレイト・アート』からの数々のナンバー、さらに珠玉のカヴァー曲...完璧でしょう。 何よりも嬉しかったのはヴァン・ダイクが完全な「現役選手」で、本当にパワフルだったことです。'60〜'70年代のヒーローもそろそろ60歳代、中にはちょっとお疲れの人もいたりしますが、ヴァン・ダイクは違う!力強くピアノを引きまくり、歌いまくる。十数年にわたりヴァン・ダイクを追いかけていますが、なんだか、最近の方が「ストレートに元気」な感じがするなぁ...。 |
■ Live Data ■
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−実に14年ぶりの追記!2013年1月29日− |
Google検索"ヴァン・ダイク・パークス 来日"等でお越しの皆様。 2013年1月の来日公演についてはこちら↓のブログに記しました! Van Dyke Parks with special guest Haruomi Hosono Live Report January 28, 2013 at "Billboard Live" Tokyo, Japan http://sadanari.blog16.fc2.com/blog-entry-31.html |
■ Owarini − Epilogue ヴァン・ダイク・パークスは今まで発表した特集の中で、最もマイナーなテーマかもしれません。しかし、実は、私が音楽的に最も影響を受けたミュージシャンでもあります。 とにかく、聴いて欲しいと思います。考えてみればヴァン・ダイクほど、一般の方々が出会うチャンスに乏しいミュージシャンも珍しいのではないでしょうか。雑誌のグラビアを飾ることもなく、テレビで紹介されることもなく...しかし、そうしたミュージシャンの中に、こんな鬼才がいて、数十年間にわたりユニークな作品を送り出し続けているということを是非共知って欲しいと思います。 私がヴァン・ダイクを強く薦めるのには大きな理由があります。それは、彼が「強烈なポピュラリティーを持っているのに、知る人ぞ知る存在である」ということです。 やっていることがやたらとマニアックで、難解で、マイナー...こういう人は数多くいると思います。ま、こりゃマイナーでも仕方がない。万人に受け入れられるものではないですから。 しかしヴァン・ダイクは違います。フォスターやガーシュイン、アメリカ南部の音楽、カリブ海の音楽、ハリウッドの映画、風変わりなリズムやメロディ、エキゾチックなムード...こうしたものが好きならば、きっとヴァン・ダイクも気に入ることでしょう。さすがに「地球上の全ての人に」とは行きませんが、それでもかなり多くの人々に受け入れられる、聴かれるべき音楽なのではないでしょうか。なによりもハッピーなのが素晴らしいですよ! YahooやInfoseekで"ヴァン・ダイク・パークス"と検索しても研究ページは出て来ませんでした。実はこの状況は海外でも同じで、このページは「日本唯一」と同時に「世界唯一」の専門ページとなるかもしれません。出生から最新ライヴまで、たっぷりと書きました。お役に立てれば幸いです。 それにしても、たった5ページなのに、疲れた(笑・特にタイヘンだったのがビーチボーイズ関係。彼らについてはウカツなことは書けないので)。ものすごい密度になった様な気もしますが、ヴァン・ダイクのアルバムの充実度、ライヴのパワフルさを考えれば、これくらいまだまだ...。 |
Domo arigato ! Fin |