99/08/24
第四回
ヴァン・ダイク・パークスを
発見せよ!

日本唯一の徹底研究ページ




■ Van Dyke no Sakuhin - Discography ■







"Song Cycle"

1968/1997

WPCR1441 (Wea Japan)



 白昼夢のハリウッド、永遠の斬新 

Van Dyke Parks "Song Cycle" 


 天才の天才たる所以(ゆえん)を理解するのは難しい−この『ソング・サイクル』を聴くと、よく云われるそんな言葉を連想します。天才ヴァン・ダイクの歴史的デビュー・アルバムですが、その天才さがほとばしり過ぎていて、我々凡人には少々難解でもあります。
 いわゆるロックのフォーマットから大きく離れて、オーケストラやSE、エフェクトを多用したボーカルなどによって構成されたこのアルバムは、例えて言えば「架空の映画のサウンド・トラック」といった感じでしょうか。全体を通じてはかなり実験音楽的なサウンドが続くのですが、ごく部分的にはハリウッド映画やアメリファン・フォークを強烈に連想させるモチーフも登場します。

 コンセプト・アルバムの名盤、とも云われています。このころ、漸進的なアーティストの間でヒット・シングルをまとめただけの従来のアルバムづくりとは決別し、一枚のアルバムでひとつの「物語」を表現するような、意欲的な試みが行われ始めていました。そうしたコンセプト・アルバムで最も有名なのが、かのビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』('67)、知る人ぞ知る名盤にカート・ベッチャー率いるザ・ミレニウムの『ビギン』('68)があります。
 この『ソング・サイクル』もそうした試みの中から生まれた作品でしたが、一般のリスナーが期待するポップスとあまりにもかけ離れているために賛否両論を呼び、セールス的には日本は勿論、本国アメリカでも見事なくらいにサッパリだったそうです。

 アルバム・タイトルとなった「ソング・サイクル」とはドイツ・ロマン派の作法である「連作歌曲」のことで、そうした作法と前述のアメリカ的モチーフを考え併せると、ヨーロッパ的なオーケストラ・フォーマットに極めてアメリカ的なモチーフを当てはめて表現した一種の「アメリカ交響楽」である、とも考えられます。
 それゆえに、サウンド・クリエイターを目指す方などには是非お聴きいただきたいと思います。例えば2「パーム・デザート」の白昼夢の様なハリウッド、4「未亡人の散歩」や5「オール・ゴールデン」のイントロに見るクラシックとポピュラーのハイブリッド、7「パブリック・ドメイン」のリズム・アレンジ、9「アティック」のボーカルとストリングスの交錯...製作から30年経った今でも十分すぎる位に魅力的なアレンジのヒントがたっぷりと詰まっています。

 しかし!実験的なだけのアルバムではないのだ!8曲目に収められた「ドノヴァンズ・カラーズ」。ドノヴァンの曲をインストでカヴァーした小曲ですが、これが、もう、夢の様な名演。世界中の誰が聴いても納得の逸品です。この1曲のためにだけ、このアルバムを買っても損はないですよ。

 最後に、私事ですが、このアルバムにはツライ思い出があります。'86年の春ごろ、渋谷のレコード・フェアでなんと「日本盤オリジナル・アルバムの中古」を発見。価格は\3800で、今ならば2秒でレジに直行するところですが、なにしろ15年近く前の話、当時の\3800というのは今の30万円位の価値があるので...というのはウソですが、貧乏な大学1年生にはちょっとした出費。そこで、見送ってしまたんだなぁ...。
 あれ以来、二度と、日本盤のアナログには出会いません。裏ジャケには現・ニッポン放送社長、亀淵昭信氏の解説がありました。あそこには一体、何が書いてあったのだろう...。


 この『ソング・サイクル』から5作品、『トーキョー・ローズ』までは、'97年8月に日本盤CDが一斉に再発されました。入手は極めて容易です(しかも廉価盤)。






"Discover America"

1972/1997

WPCR1442 (Wea Japan)



 南部を映し出す、音の万華鏡 

Van Dyke Parks "Discover America" 


 前作とは大きく異なり、ロック・バンド的なサウンドも多分に採り込んだのがこのセカンド・アルバム『ディスカヴァー・アメリカ』です。しかし単純なロック・アルバムではなく、19世紀的なポピュラー・チューン、ストリングスやスティール・ドラムとヴォーカルを組み合わせた実験的なサウンド、そして南部の匂いのするロック・ミュージックという3つの要素が交互に登場します。

 バイオグラフィーに書いた通り、この次のアルバム『ヤンキー・リーパー』でヴァン・ダイクのポップ・センスは大爆発する訳ですが、こうして並べると、この『ディスカバー・アメリカ』は前作で聴かせた実験的なアレンジの才能と、次回作で表出するポップ・センスの、まさに中間を行く作品であると言えるでしょう。
 徹底的に楽しい『ヤンキー...』ももちろん素晴らしいアルバムですが、前述の様な3つの要素、ヴァン・ダイクならではの多様さに溢れるこのアルバムも個人的に非常に気に入っています。私が初めて聴いたヴァン・ダイクの曲、「Be Careful」もこのアルバムの1曲でした。

 アルバムのコンセプトはアメリカの歴史をひもときながら、同時に隣人トリニダッドの空気を伝えるというもの。ちなみにジャケットのバスの左側はトリニダッド行き、右側はハリウッド行きになっています。
 これには二つの背景があります。ひとつは当時のヴァン・ダイクがカリプソやスティールドラム等のカリビアン・ミュージックに傾倒していたということ。そしてもうひとつが、かつてのアメリカとトリニダッドの関係で、当時泥沼化しつつあったアメリカとヴェトナムの関係を比喩したということです。
 歌詞はかつてアメリカがこの隣人に何を行ったかと、隣人達の自治独立の言葉が綴られており、なかなかに辛辣です。私は音楽性を無視した剥き出しのメッセージ・ソングが大嫌いなのですが、さすがはヴァン・ダイク。音楽性の高さはもちろん、アメリカとトリニダッドとヴェトナム、アメリカ人である彼が本来はトリニダッド島民の風刺ソングであったカリプソを演奏すること等々、二重三重のアイロニーとその諧謔精神には感服せざるを得ません。

 聴きどころを幾つか。8「トリニダッドのF.D.R.」はライ・クーダもカヴァーしたアティッラ・ザ・フンの名曲。アレンジはリトル・フィートの故ローウェル・ジョージで、ネバっこい歌唱がたまらない!ヴァン・ダイク自身も気に入っているのか、'98年のライヴ・アルバム『ムーンライティング』に収録の他、'99年の来日ステージでも演奏されていました。
 ローウェル・ジョージの曲、11「セイリン・シューズ」もカヴァー。オリジナルは'72年発表のリトル・フィートの同名アルバムに収録されていた名曲ですが、このヴァン・ダイク版もカラフルな感じでなかなかです(こちらも'99年に東京で演奏)。
 そして!アルバムの最後を飾るのが、エッソ・トリニダッド・スティール・バンドの演奏による合衆国国歌16「星条旗よ永遠なれ」。これは改めて考えると非常に皮肉(笑)。ティム・バートンの映画『マーズ・アタック』('96)のラスト・シーンにも通じますね。

 蛇足ながら、不肖サダナリ、このアルバムをしっかりと握りしめて、雑誌に登場したことがあります。購入して13年も経ちますが、いまだに頻繁に聴いていますよ。






"Clang of the Yankee Reaper"


1975/1997

WPCR1443 (Wea Japan)



 カリブの風を帆に受けて、究極の楽しき音 

Van Dyke Parks "Clang of the Yankee Reaper" 


 ヴァン・ダイクをどれか1枚、というのならば、まずこの作品を。もしも店頭になかったならば、注文をしてでも聴いて欲しい、そんな作品です。

 次第にカリブ寄り、バンド寄りになって行くヴァン・ダイクが、ライヴ演奏までも視野に入れて作ったのがこの『クラング・オヴ・ザ・ヤンキー・リーパー』です。スタイルはカリプソ8割にアメリカン・ロックが2割。徹底的にポップかつライヴな雰囲気で、実際にこの頃、本国アメリカでは小さめの会場を使い「エキゾティック・ショー」という名前で何回かライヴも行われていました。
 ちなみにYMO結成前の細野晴臣が、'76年5月8日に横浜・中華街で行ったライヴ「チャイナタウン・パラダイス・ショー」はこの「エキゾティック・ショー」に倣って催されたものです。

 それにしても、ともかく楽しい。前半がアメリカ南東部を出航し、カリブ海を行く船乗りのイメージ、そして後半でトリニダッドに上陸、強烈に「海」を感じさせるアルバムでもあります。ヴァン・ダイクの作品としては珍しくシンセサイザーも使われていますが、またこれがスティール・ドラムや派手なブラスと絡み合い絶品です。
 参加ミュージシャンを見てみると...なるほど。バイオグラフィでも書いた、カリビアンの盟友ロバード・グリジッヂの他、アメリカを代表するセッション・ドラマー、ジム・ケルトナーが参加。タイトでヘヴィーでワザがある、そして非常にアメリカ臭い−このアルバムではそんな彼のドラムが非常に印象に残りますが、アメリカ的かつカリブ的な雰囲気はこの2人のコラボレーションによって生み出されていたのかもしれません。またアレンジについてはヴァン・ダイク本人の他、トレヴァー・ローレンスも活躍しています。

 後半に続く怒濤のカリプソ攻撃を締めくくるのが、最終曲、ブラス・ロック・アレンジによるパッフェルベルの10「カノン」。これまたこの1曲のためにだけ、このアルバムを買っても損はないという名演です。
 しかし、あれ?この曲に入っているシンセで作った手拍子の音、YMOの名曲「ファイア・クラッカー」と同じだぞ。そもそもこのアルバム全体が、前述のライヴの他、細野サンの『トロピカル・ダンディ』('75)や『泰安洋行』('76)といった作品に影響を与えたものなのだけど、ふむ、ここから遙かYMOまで繋がって行くのか...。

 やたらとプッシュしてしまいましたが、この1枚だけだと、無意味に明るいカリビアンの人、という印象を持ってしまうかもしれませんねぇ。本当はヴァン・ダイクのオーケストレーションこそ聴きモノなのですが...やはり1枚だけと言わず、『ディスカヴァー..』や、次の作品も!


 このアルバム、現在発売されている日本盤CDは単に『ヤンキー・リーパー』というタイトルになっている模様です。ご注文の際はご注意下さい。






"JUMP!"


1983/1997

WPCR1444 (Wea Japan)



 美しさと懐かしさ、めくるめくオーケストレーション 

Van Dyke Parks "JUMP!" 


 映画やミュージカルに興味のある人、クラシック出身の人はこのアルバムから聴くのも良いでしょう。ヴァン・ダイクの才能が最もわかりやすく、美しく表現された作品です。

 '83年にリリースされたこの『ジャンプ!』には驚きました。このアルバムから私はどうにかリアル・タイムで聴き始めたのですが、エレクトリック・ポップ全盛のこの時代に、壮大なオーケストラ・サウンドでミュージカル仕立て。しかし、それでいてハーモニーやリズムには流行の最新ポップスの雰囲気もある、この音楽の種類は何なんだ?とタマゲましたよ。

 オープニングから、もう、素晴らしい。フルオーケストラとバンジョーの絡みはフォスターを思わせ、続くストリングスやハープはハリウッド風。クレイジーなピアノや、たたみ込む様なリズム、そしてうっすらと入るスティールドラムは、やはり、ヴァン・ダイクのもの(笑)。
 前作からは8年間のブランクがありますが、その間に映画音楽の仕事を本格的にスタートし、なかでも'80年にディズニー映画『ポパイ』(監督はなぜかロバート・アルトマン)などを経由していたことが、このサウンドの背景にもなっています。

 ちょっとコミカルなヴァン・ダイクのヴォーカルが歌うのは、アメリカ南部の黒人民話である「ブレア・ラビット」の世界。1880年に出版されて以来、アメリカの子供たちに親しまれて来た「アンクル・リーマスの世界」をベースに、ヴァン・ダイク自らが歌詞も書いています。インナーを見ると服を着たウサギが働いていたり、ダンスを踊っていたり...のイラストがあり、歌の世界へのトリップを手助けしてくれます。
 なお、この『JUMP!』はロスアンジェルスとニューヨークでミュージカル化され、更に'87年にはヴァン・ダイク作による「ブレア・ラビット」の続編、『JUMP AGAIN!』も出版されました。

 前作同様ジム・ケルトナーが参加、ここでもやはりタイトなリズムが光ります。オープニング・ナンバーであるインストの1「JUMP!」や、ミュージカル風の8「Home」で、オーケストラ・サウンドでありながら同時にロック的なものを感じさせるは彼のドラミングの力でしょう。
 またその「HOME」では、'50年代の終わり頃、モダン・フォーク・グループ"イージー・ライダーズ"で一緒に活動したテリー・ギルキスンとの数十年ぶりの共作も行っています。
 なお今回のアレンジの立役者はレニー・ニーハウス。ヴァン・ダイクのペンによるユニークなメロディー・ラインを華麗に料理しています。

 しかし、ともかく、名盤ですよ。ラストの11「ホミニー・グローヴ」のアレンジ−室内楽風のストリングス・アンサンブルで始まり、ティンバレス1発でカリプソ風のポップ・チューンに切り替わる−なんて、ヴァン・ダイクの真骨頂という感じです。
 詳しくはのちほどライヴレヴューで書きますが、前回'88年の来日公演はこのアルバムを中心に構成され、ストリングスやブラスが「JUMP!」を奏で始めた時、客席にいた不肖サダナリは感激のあまり目が潤んでしまったのでした。


 上のジャケット写真はCDのもの。アナログ・ヴァージョンは上の絵の周りに黒い枠があり、何種類もの動物たちが囲んだアーリー・アメリカン調の渋いものでした。






"Tokyo Rose"


1989/1997

WPCR1445 (Wea Japan)



 また一歩、フォスターに近づく 

Van Dyke Parks "Tokyo Rose" 


 '88年の初来日時に演奏された書き下ろしの新曲がまとめて収録されているのが、この『トウキョウ・ローズ』です。ヴァン・ダイクのキャリアの中ではちょっと影が薄いのですが...妙なニッポン趣味の為かもしれないなぁ(笑)。来日時のインタヴューでは、「新作は日本をテーマにしたものでタイトルは『ディスカヴァー・ジャパン』だよ」などとも語っていました。

 カリブや古き良きアメリカに題材を採っていたヴァン・ダイクが、ここではなぜかニッポンに注目。いつものオーケストラ・サウンドの中に琴や琵琶、尺八といった和楽器を大々的に取り入れて...結果は賛否両論だったですね。ちなみに琴と琵琶は在米の喜多嶋修(内藤洋子の主人、喜多嶋舞の父親、元・ランチャーズ)、ゲスト・ヴォーカルで飯島真理も参加しています。
 突然のニッポン趣味は来日公演の関係もあったのでしょうが、それだけではありません。時まさに日米貿易摩擦の真っ只中、更には捕鯨を巡る論争なども激化し、日米関係は現在よりも明らかに微妙でした。そんな両国に対しての音楽による融和?を図ったのかもしれません。

 メイン・テーマとなっている和風の曲よりも、『ヤンキー・リーパー』の頃を思い出させるその名も6「カリプソ」(Vo.飯島真理)や、フォスターそのものと言った感じの10「ワン・ホームラン」が素晴らしいのはちょっと皮肉。結局、ダン・ダイクとはそういう世界の人なのでしょう。
 特にヴァン・ダイク自身が日本語で歌う「ワン・ホームラン」は逸品で、当時の評論でも「全ての短所を補って余りある名曲」などと書かれていました。確かに最後にこの曲を聴くと、全て許したくなる(笑)。






"Orange Crate Art"


1995

WPCR435 (Wea Japan)



 サウンドで知る19世紀のカリフォルニア 

Van Dyke Parks "Orange Crate Art" 


 ヴァン・ダイクとブライアン・ウイルソンの連名となったこの『オレンジ・クレイト・アート』はいろいろな意味で、「お帰りなさい」と言いたい名盤です。複雑な背景を思うもよし、背景などにはこだわらずに純粋にサウンドだけを楽しんでもよし、でしょう。

 さて、どこから書こうか...まずは、ブライアンとヴァン・ダイクが作ったアルバムであるというのが大変なことです。バイオグラフィに書いた通り、この2人はこの作品から30年前にビーチボーイズ名義で『スマイル』という意欲的な作品を作ろうとしますが失敗。正直なところ志は高かったのですが、巧く音に出来なかったらしいんですよ。それが、30年という歳月を経て、やっと完成。やっと一区切りが付いた様な気がします。
 全編ブライアンが歌っている、ということで驚いた人も多かったでしょう。『スマイル』失敗の原因のひとつ、ブライアンの精神錯乱とドラッグ依存は非常に根が深く、その後数十年にわたり正常な音楽活動を妨げて来ました。それが、このアルバムでは、かつての様に歌っている(涙)。キーが下がり、ファルセットこそ弱くなったものの、ハリのある声質で音程もしっかりしている、多重録音を使い独りコーラスも演っている...。
 この年、ブライアンはビーチボーイズのかつての名曲を歌い直したソロ・アルバム『駄目な僕』も発表していますが、私はこちらの『オレンジ...』でのブライアンが良かったなぁ。活き活きとして、何よりも「新しいものを創り出している自信」に満ち溢れていた。実際のところはアルバム製作には実に2年以上の時間を費やし、ブライアンのヴォーカルも「何とか騙し騙し歌うように仕向けた」(ヴァン・ダイク)ものだったらしいですが。

 まだまだあるのだ。プロデューサーはレニー・ワロンカー。30年前にブライアンとヴァン・ダイクを引き合わせ、ヴァン・ダイクのファースト・アルバムをプロデュースした人物でもあります。一介のA&Rマンから遂に社長にまで登りつめたワロンカーが、ここで再び登場します。更にスティールドラムでロバート・グリニッジも参加。ヴァン・ダイクを巡る重要なひとびとが再会した...それがこの『オレンジ...』です。

 ヴァン・ダイク・ファンの私としては、彼のサウンド・メイクがオーケストラ中心のアーリー・アメリカン調に帰って来たことが一番嬉しかった(笑)。やはり、この感じが、ヴァン・ダイクですよ。
 アルバム・タイトルの「オレンジ・クレイト・アート」とは、19世紀後半カリフォルニアから世界中に向けて出荷されるオレンジの梱包に描かれていたイラストのこと。オレンジとカリフォルニアが好きになるようにという宣伝の意味があったそうですが、それこそ、まさに古き良きアメリカの象徴。映画音楽を思わせるオープニングの1「オレンジ・クレイト・アート」、サウンドは懐古的で、歌詞は現代的な7「サン・フランシスコ」、そしてラストを飾るガーシュインの12「ララバイ」は感動的なまでに美しくて...妙なニッポン趣味などではなく、やはり、思い切り、こういう音楽を演ってください(笑)。






"Moonlighting"


1998

WPCR1773 (Wea Japan)



 30年間を駆け抜ける音のパノラマ 

Van Dyke Parks "Moonlighting" 


 前作、『オレンジ...』で30年間にわたるワーナーとの契約が一旦終了。盟友ワロンカーが同社を去ったという事情もあり、「『オレンジ...』が僕のラスト・アルバムになるかもしれないよ」と気弱になっていたヴァン・ダイクでしたが、なんでも優秀なマネージャーが付いたとかで映画に、テレビに、舞台にと逆に忙しくなってしまったそうです(笑)。
 そのマネージャーの手腕に因るものかどうかは不明ですが、めったにライヴを演らないヴァン・ダイクが'96年9月に地元ロスの名門ライブ・ハウス「アッシュ・グローヴ」でステージに立ちました。そしてその模様を収録したのがこの『ムーンライティング』です。

 選曲は実にユニーク。本格的なストリングス・アンサンブルを配した1「ジャンプ!」に始まり、上記の『オレンジ...』から3曲、しかもブライアンの代わりにヴァン・ダイクが歌うという貴重なテイク、そして'88年の来日公演でも演奏された19世紀の作曲家ルイ・モロウ・ゴットシャルクの「ナイト・イン・ザ・トロピックス」、そして!名盤『ディスカヴァー・アメリカ』から「トリニダッドのF.D.R.」。前半は緊張ぎみだったヴァン・ダイクのヴォーカル(実際コッチコチだったらしい)もこの曲から滑らかになって来ます。
 その後も今まで紹介した過去のアルバムから満遍なく演奏されますが、驚いたのはピアノ弾き語りでデビュー作『ソング・サイクル』収録の「オール・ゴールデン」までも演ってしまったこと。めちゃくちゃハッピーな「ホミニー・グローヴ」で盛り上げて、ラストは感動の「セイリン・シューズ」です。

 実はこの選曲は'99年の来日公演に引き継がれるのですが、通常のロック・バンド編成にストリングス・アンサンブルを加えたユニークなフォーマットは地元ロスだけのものでした。トリオで行われた来日ステージも素晴らしいものでしたが、ストリングスのいるこの編成で聴きたかった!と思わせる名盤です。






"Idiosyncratic Path"
1994
DIAB807 (Diabolo)
"It's a Soft Rock World"
1996
SR9601 (Keystone)
"No.9/気楽に行こう"
1966
(グラモフォン)



 編集盤などをまとめて。『Idiosyncratic Path』は米国ディアボロから発売されている唯一のベスト盤。『ソング・サイクル』から『ヤンキー・リーパー』までの19曲を収録。オリジナル盤を持っていれば意味はないのですが、ジャケットが良く、選曲・編集もなかなかなのでつい買ってしまった。しかも結構聴いています。初期ヴァン・ダイク入門には非常に便利なアルバムと言えるでしょう。
 ただね、アルバム内の構成で作家性を表現する人ですから、やはりオリジナル・アルバムで聴いて欲しいという思いも、ある。

 『Vanda Magagine』の佐野邦彦氏選曲によるソフト・ロック・コンピ、『It's a Soft Rock World』ヴァン・ダイクのデヴュー曲「カム・トゥ・ザ・サンシャシン」が収録された貴重盤。私もこのCDで初めて聴きました。バイオグラフィに書いた通り、僅か3分足らずの小曲ながらアレンジに、ヴォーカルに、ヴァン・ダイクの魅力が凝縮されています。是非聴いて頂きたい名曲です。
 この曲を聴いて「なんだか、スウェディッシュ・ポップみたい」と言った友人もいました。なるほどカーディガンズやらカジ・ヒデキやらのトーレ・ヨハンソン作品に通じるヒネリやシカケもありますね。

 そして右のモノクロ写真は'66年に発売された「No.9」と「気楽に行こう」が収録された日本盤シングル。第九のロック版である「No.9」はヴァン・ダイクのキャリアの中でも重要視されているのですが...残念ながら私はこの曲のみ未聴。ああ悔しい。「No.9」はこのシングルを探すか、『The Core Of Rock』というMGMのコンピレーションを入手するかしないと聴けない模様です(2003年追記:苦節20余年でやっと聴きました「No.9」!感想はのちほど!)。
 やはり日本人ゆえ、日本盤シングルが欲しいところ。しかし、こんな激レア盤どこかに出回っているのかな?中古屋でも見たことナイなぁ...。







 ちょっと長くなってしまいましたが、なにしろヴァン・ダイクの紹介ページというのは日本で唯一ここだけ。じっくり書いて、出来るだけ多くの人に聴いて頂きたいと思います。

 さて次のページでは、ヴァン・ダイクの才能を象徴する数々のプロデュース作品をご紹介。下の若き日のヴァン・ダイクのボタンをクリックしてお進み下さい




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