00/01/23
第七回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
緊急ミニ特集
中級ジャズファン
ホントの愛聴盤




 アイク・ケベック(ts)を聴け!

その5 


 テナー・サックス奏者というと皆さんは誰を思いつきますか?巨人ソニー・ロリンズか、哲人ジョン・コルトレーン、ボサ・タッチのスタン・ゲッツ...このあたりが一般的なところでしょう。しかし、サックスを演奏する者同士が話をすると、意外とこのアイク・ケベックの名前が出て来ます。
 ミュージシャンズ・ミュージシャン−通好みの、難解な人かとお思いでしょうが、とんでもない!彼のプレーは極めてわかりやすく、芳醇で、テナー・サックスの魅力を余すところなく表現しています。というわけで、中級ジャズ・ファンに人気の高い、アイク・ケベックをご紹介します。


BOSSA NOVA SOUL SAMBA
IKE QUEBEC (ts)
TOCJ-4114 (TOSHIBA)
1962

 とにかく、名盤です。私がアイクを知ったのは'92〜'93年頃、ブルーノートから発表された編集盤『BULE BOSSA』収録の「ロイエ」という曲を通じてでした。アイクの演奏は収録十数曲のうちその1曲だけでしたが、ともかく、驚いた。
 こんなクロい「ボサ」があったのかという驚き、こんな知性的な、こんな静かなブルース・テナーがあったのかという驚き...以降アイクは私のヒーローとなっています。
 この『ボサノヴァ・ソウル・サンバ』はその「ロイエ」が収録されたオリジナル盤。長らく「幻の名盤」となっていましたが、'94年に日本の東芝からCDで再販されました。名曲「ロイエ」はオープニングで聴くことが出来ます。

 '62年といえばボサ・ノヴァ誕生から5年、世界的ボサ・ブームが沸き上がりつつあった頃です。スタン・ゲッツ(ts)とチャーリー・バード(g)の『ジャズ・サンバ』がリリースされ、翌'63年にはスタン・ゲツとブラジル人ジョアン・ジルベルト(vo,g)の歴史的名盤、「イパネマの娘」が収録された『ゲッツ/ジルベルト』が世に出て...。
 そんな中、アイクの採ったスタンスはユニークでした。「もっとねっとりと、もっとブルースの感覚と官能性を加えようと思ったんだ」「ボサ・ノヴァを基本のままのブルースとかけあわせるとどうなるかというのもやってみたかったんだ」−アイクの言葉です。そして奏でられたサウンドは前述の通り、聴く者を虜にしてしまう独特なものでした。

 そしてそのブルース・テナーに乗せて演奏される曲目が面白い!前出の「ロイエ」はこのセッションで重要な役割を果たしているケニー・バレル(g)のオリジナルですが、そのほかアイクのオリジナル「ミー・ン・ユー」や「ブルー・サンバ」などのクロいボサも秀逸、更にはドボルザークの「家路」や、リストの「愛の夢」なども彼のブルース・ボサ・テナーによって変化を遂げています。
 「夜更けのダンスホールの様な感じ」−アイク自身のこの言葉が、このアルバムの雰囲気を最も的確に表現しているでしょう。アイクのテナーと、怖いくらいにクールなバレルのギター、そしていつもは自分のコンボでバカ騒ぎばかりしているウイリー・ボボのドラムが別人かと思うほどに静寂感に溢れて...とにかく、聴いてみて下さい。

 そしてこのアルバムはアイクの遺作でもあります。彼はこのセッションが行われたわずか2カ月後の'63年1月に肺ガンのためにこの世を去っています。享年45歳、早過ぎる死を自覚していたであろうアイクが、最後に残したものがこの名盤でした。


It might as well be spring
IKE QUEBEC (ts)
TOCJ-4105 (TOSHIBA)
1961

 この『春の如く』こそ幻の名盤。'94年にCD化される前には'60年代に発売されたオリジナル・アルバムしか存在せず、一時はウン十万円ものプレミア価格が付いていました。上の『ボサ・ノバ・ソウル・サンバ』がアイクとケニー・バレル(g)による名盤とすると、こちらのパートナーはオルガンのフレディ・ローチです。ともかく、1曲目から、素晴らしい!

 アイクは'38年ニュージャージーの生まれ。最も長く在籍したのはキャブ・キャロウェイ(vo)楽団だそうですが、若い頃はなんとダンサーとしても活動していたそうです。ブルーノート契約後は単なる契約ミュージシャンを越え、同レーベルのスカウト、コーディネーター、プロデューサーとしても活躍。チーフ・プロデューサーであるアルフレッド・ライオンの片腕として数々の名盤誕生に関わって来ました。
 ユニークなのが「運転手」としての存在。ブルーノートのアルバムは、その多くがニューヨーク郊外、ニュージャージー州にあったルディー・ヴァン・ゲルダー・スタジオで録られていましたが、ニューヨークに集合したミュージシャン達を車に叩き込み、そこまで運び込むのもこのアイクの役目だったそうです。
 影になり、日向になり、ある時は優れたテナー奏者として自らもレコーディングを行い...ジャズ・メン達に愛されていたであろうアイクの姿が時を超えて浮かんで来るような気がします。現代のジャズ・ファンの「アイクはいいねぇ」という声も、彼のサウンドからそうした人柄が感じ取れるからかもしれません。

 上の『ボサ・ノヴァ...』とは違い、こちらでは少々ハードな演奏も聴かれますが...ううむ、このアイクの"静寂感"というのは一体何なんだろう?どんなに激しいブローをキメようとも、決して自分を見失う事はなく、どこか醒めた感じがする。プロデューサー・タイプならではのクールさなのかもしれません。
 またそこに絡むローチのオルガンがイイ!こりゃウン十万のプレミアも付くわけだ。わずか2000円ちょっとで聴ける幸運に感謝しなければ。




アイク・ケベック
「イージー・リヴィング」
これもブッ飛ぶぞ




 いやぁ、今回の特集はイイですね。「これも是非紹介したい!」と思っていたアルバムがどんどん書ける(笑)。テナー・サックス特集か何かで書こうかと思っていたアイクも、一足先のご紹介です。ともかく、大好きなテナー奏者なんです。

 さて、いよいよ最後の1枚。いつも最後の方になるとフリーが書きたくなってしまって(笑)。今回もとっておきの1枚をお教えします。では例によってバカボン・パパをクリックして下さい。




次は確かにフリーだけど
一味違った名盤なのだ





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