00/01/23
第七回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
緊急ミニ特集
中級ジャズファン
ホントの愛聴盤




 ジャズでココロのセンタクを

その4 


 ピアノとヴォーカルの矢野顕子はハヤりの「癒しの音楽」という言葉がキライだそうです。ダンナである坂本の「癒しのピアノ」の大ヒットも、実は快く思っていなかったそうな。
 矢野も坂本も、私は聴き始めてから20年以上経ちますが...矢野に賛成。坂本の"あの曲"もそんなにイイとは思いませんでした。坂本ならば過去にもっと素晴らしいピアノ曲ありましたし...。

 どうも私も「癒しの音楽」は苦手です。そもそも癒しの為に音楽が"製造"されている、ということ自体病んでる様な気がするのですが。私自身は癒し系は不要。ここで挙げる様な、優れたジャズを聴いていれば大丈夫です。


NIGHT LIGHTS
GERRY MULLIGAN
818 271-2 (MERCURY)
1963

 すいません。今回の特集では基本的に過去に紹介したアルバムは載せないつもりだったのですが、一昨年の「バリトン・サックス特集」でもご紹介した、ジェリー・マリガン(bs)の『ナイト・ライツ』、再びの登場であります。
 このページを見ているひと全員がこのアルバムを買うまで何度でも紹介する−というのは冗談ですが(笑)、それくらいお薦めしたい、名盤中の名盤です。

 前回のアルバム紹介から2年が経っておりますので、御存知ない方もいらっしゃるでしょう。バリトン・サックス界の偉人、マリガンが世に送り出した珠玉の名盤。前回紹介の反響も大変でした。「心の中の濁ったものがとけて消えていくようです」とまで語るOLのRさん。Rさんはお母様とお二人で聴いていらっしゃるとのこと。
 都内の元気な大学生Y君は、当初「バリトン・サックス特集」というマイナーな企画に反対で「どうして、バリトンサックスなんだろう?!」なるメールを送って来たのですが、数カ月後にこのアルバムを聴き一転、「すばらしい!の一言です。どっかのJAZZバーで、バンドの演奏を聞きながら独り、渋く、きれいな夜景を見ている気分です」そして「ありがたい特集をしていただいたものだと、今更ながらにお詫びと、お礼が言いたい気分です」と丁寧に謝って来てくれました(笑)。
 そいえば「タイトル曲が昔ラジオのジャズ番組のテーマに使われていた」ということを書いたら、「油井正一さんの『アスペクト・イン・ジャズ』のテーマでしたね」とご指摘頂いたヴェテラン・ジャズ・ファンの方もいらしたりして...。

 私の冗長な紹介文よりも、こうした皆さんの声が、このアルバムがいかに優れて、いかに愛されている作品なのかを証明しているでしょう。従来のアドリブ・プレー中心のモダン・ジャズに、クラシックの対位法をベースにした緻密なアレンジを持ち込み、西海岸系の"クール・ジャズ"を確立したマリガンの、神髄が、ここにあります。
 過去の記述と重複してしまいますが、このアルバムなぜかほとんど人工的なエコーが用いられておらず、照明を落とした部屋でひとり静かに聴いていると、まるで目の前でマリガン達が演奏しているかの様な錯覚に陥ります...そう、まさにY君が感じた通りです。
 マリガンのバリトンはもちろんですが、アート・ファーマー('99年没。合掌)のトランペットも、ボブ・ブルックマイヤーのトロンボーンも、そして名手ジム・ホールのギターまでもが目の前で鳴っている、そんな感じです。飾り気を排して「その楽器そのものの音を聴く」という、これは貴重な体験かもしれません。

 素晴らし過ぎる「黒いオルフェ」のカヴァーや、ショパンの「前奏曲ホ短調」のボサ風アレンジ、マリガン・オリジナルの代表的ナンバーである「フェスティヴ・マイナー」など楽曲も秀逸。しかし何よりも輝いているのは、タイトルナンバー「ナイト・ライツ」で聴けるマリガンのピアノでしょうか。
 「音の壁を作ってしまい、アンサンブルを消すから」と、自己のコンボには決してピアノを入れようとしなかったマリガンですが、ここではそのテーマを自らのピアノで奏でました。そしてそれは、寡黙で、美しく...。

 「マリガンのピアノ、ピアニストの弾くピアノとは全然違うよね。僕らにも弾けそうな気がするけれど、絶対にあの味は出せないんだろうなぁ」−ちょっと小難しいマスターが(めずらしく陽気に)こんなことを言っていた横浜駅西口のジャズ喫茶"ワーゲン"も昨年末に消えてしましました。


Cheganca
the Walter Wanderley Torio
POCJ-2562 (Verve/POLYDOR)
1966

 前ページの終わりで「あまりに好きなので、自分だけのものにしておきたくて本当は教えたくない」と言ったのはこの作品です。しかしそれではページにならないので(笑)、逆に思い切りご紹介します。

 '98年に日本のポリドール・レコードからヴァーヴ・レコードのボサノヴァ・シリーズがまとめて復刻されました。その中でも、「よくぞ出してくれた!」と言いたくなる一枚がこのワルター・ワンダレイ(org)の幻の名盤『シェガンサ』でした。
 ワンダレイは'50年代かえら活躍するブラジル人オルガン奏者で、ブラジル時代はムード音楽を中心に演奏していました。'66年に歌手のトニー・ベネットが彼の演奏を聴き、ヴァーヴのプロデューサーだったクリード・テイラーに紹介します。そしてワンダレーはアメリカに移住、ヴァーヴで発表した最初のアルバム『レイン・フォレスト』('66)収録の「サマー・サンバ」が全世界的な大ヒットを記録します。この曲は本当に流行りました!そのメロディーを聴けばみなさんも「あぁ、なんだ、この曲か」と思われることでしょう。
 『レイン・フォレスト』の直後にボサノヴァの女王、アストラット・ジルベルト(vo)との共演盤『A Certain Smile, A Certain Sadness』をやはりヴァーヴからリリース、この『シェガンサ』はそれに続く重要な作品です。しかしなぜかこれだけが再発されておらず、長らく幻の名盤となっていました。'98年の復刻はなんと「世界初CD化」でした。

 有名すぎる『レイン・フォレスト』や、アストラッドとの共演盤ももちろん気に入っていますが、私はなんといってもこのシェガンサ、特に1曲目のタイトル曲とそれに続く「アマーニャ(明日)」が大好きです。ボサノヴァというとブラジルの明るい太陽、という感じがしますが、このアルバムはなぜか夜の雰囲気。ちょっと音を落として、深夜に聴く事が多いです。
 ともかく「シェガンサ」のイントロがオトナっぽくて渋いのなんの(笑)。徹底的にクールなボサに、思わずニヤリとしてしまうことでしょう。

 ジミー・スミスやフレディー・ローチ、ブラザー・ジャック・マグダフやロニー・スミスなどのブルーノート/プレスティッヂ系コテコテ・オルガンもいいですが、全くタイプの違う−かつワン・アンド・オンリーの−ワンダレイのプレイも是非お聴き下さい。

 ヴァーヴの復刻シリースではマルコス・ヴァーリの名盤『サンバ'68』(テイ・トーワがカヴァーした「バトゥカーダ」のオリジナル収録)という逸品もあったのですが、アレはジャズじゃないからなぁ(苦笑)。でも素晴らしいアルバムなので、この下に小さく載せてしまいます。




マルコス・ヴァーリの
「サンバ'68」
これも世界初CD化




 不思議とどちらも深夜に聴くことが多いですね。マリガンのアルバムはいかにも深夜向きという感じなのですが、ワンダレイの様な「深夜に聴くボサノヴァ」というのはちょっと珍しいかもしれませんね。

 さて、次のページでは特別にあるアーティストを特集します。私が最も好きなサックス奏者、アイク・ケベックです。




知る人ぞ知るアイク・ケベックは
ブルーノートの立役者でもあるのだ





前頁 ・ INDEX ・ MENU ・ HOME