00/01/23
第七回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
緊急ミニ特集
中級ジャズファン
ホントの愛聴盤




 ハード・バップでブッ飛ばしたい

その3 


 ジャズはなにしろ多彩な世界。デキシーもあれば、スウィングもある。ビ・バップもあればフリーもある。しかし"なにはなくともハード・バップ"ではないでしょうか。もちろん異論のある方もいらっしゃるでしょうが、ヒトがモダン・ジャズなるものにハマり、ズブズブと溺れて行くのは'50年代から'60年代にかけてのハードバップという名の巨大な海の様な気がします。
 というわけで、ここではモダンジャズ・ファンの終着点、ハード・バップの誕生を飾る名盤と、炎のハード・バッパーの名演をご紹介。


バードランドの夜 Vol.1
ART BLAKEY QUINTET
CJ28-5117 (TOSHIBA)
1954

 「もしハード・バップ誕生の時と場所というものが世の中にあるとしたら、本作の録音された'54年2月21日深夜のバードランドをおいて他にない」(行方均氏)とまで云われる歴史的名盤。そして若いジャズ・ファンに"必ず"聴いて欲しいアルバムでもあります。

 ビ・バップの発案者にしてジャズ・サックス界最高の天才、チャーリー・パーカーのニックネームを冠したニューヨークのジャズ・クラブ"バード・ランド"で行われたこのセッションで、そのビ・バップを更に過激に昇華させた"ハード・バップ"が誕生。その後数十年、いや現在に至る迄のモダン・ジャズの流れを決定付けました。
 バードという名の店で、バードの"次の"音楽。そしてこの翌年、バードは病で急逝。少々皮肉な、ジャズの歴史の熾烈さ、複雑さを感じさせるエピソードです。

 こうした歴史の一場面がCDによって蘇ってしまうこと−これが若い人に聴いて欲しい大きな理由。そしてもうひとつ、ピー・ウィー・マーケットのMCという小さな理由もあります。
 CDをプレイした瞬間に飛び出すカン高い奇妙なアナウンス、これがバードランドの名物司会者だったピー・ウィー(実は小人だった)の声ですが、これに聞き覚えのある人も多いはずです。'92年に大ヒットしたジャズ・ヒップ・ホップの傑作、US3の「CANTALOOP」の冒頭でサンプリングされていたのはこのアナウンスです。
 「今夜は特別にブルーノートが録音してるから、せいぜい騒いであとで『これ俺の声だぜ』と自慢してくれよ。世界中にバラ撒かれることになるんだぜ。へへへ...」と煽るあの奇声はここがオリジナル。それを是非知って欲しいと思います。そしてそれに続く演奏の過激さも。

 しかし、もう、最高の演奏だ。アート・ブレイキーのドラムの激しさ、多彩さはそのへんのロック・アルバムよりも凄いし、クリフォード・ブラウン(tp)とルー・ドナルドソン(as)のツートップによるテーマも、アドリブも、まるで火花が散っている様です。しかしルーおぢさんといえば今でも現役で、ほのぼのプレーでファンの多い人なんだけれど、若い頃はこんなにスゴイ演奏をする人だったのかぁ...。

 ブレイキーの名前は有名ですが、ここで是非ピアノのホレス・シルヴァもチェックして下さい。ハード・バップのリズム・ワークを決定付けたのがこの晩のブレイキーだとすると、アンサンブルを決定付けたのはシルヴァーかもしれません。2人はこのアルバムで築かれたサウンドをベースに翌'55年、有名な"ジャズ・メッセンジャーズ"を結成します(後期メッセンジャーズ。前期は'47年ごろ)。
 残念ながらシルヴァはこの後ブレイキーと袂を分かち自らのクインテットへと独立、ブレイキーはメッセンジャーズを続けます。そうした意味からもここで聴かれる2人のコラボレーションは貴重なものと言えるでしょう。(更にトランペットのクリフォードはこの2年後に悲劇の交通事故死。ライヴにおけるクリフォードの天才さが堪能出来る貴重な作品でもあります)。

 ハード・バップ、ひいてはモダン・ジャズのなんたるかを(もしかしたら)掴んでしまうかもしれない名盤中の名盤。このアルバムを避けて、ジャズ・ファンとしては生きて行けない、はちょっと大袈裟でしょうか?なお同時に発売されたVol.2、後年発表されたVol.3もあり。3枚合わせるとこの夜のセッションがほぼ完璧に再現されます。

 最後に卑近なハナシで恐縮ですが、不肖サダナリはこのサイトの作成作業が深夜に及び猛烈な睡魔に襲われた時に、かなりの音量でこれをかけて喝を入れております(笑)。「サダ・デラ」作成のエネルギーにもなっている名盤です。


dippin'
HANK MOBLEY (ts)
CDP 7 46511 2 (BLUE NOTE)
1965

 ハード・バップの代表選手と言えば、トランペットのリー・モーガンか、このハンク・モブレー(ts)でしょう。モーガンのアルバム紹介も考えましたが、今回は読者の方とのメールで頻繁に話題となったモブレーのこれを採り上げました。どっちみちモーガンも参加していますから、ご不満はないでしょう。
 上記のアルバムで生まれたハード・バップが11年の時間を経て見事に昇華、洗練されたさまがここにあります。時代は'60年代真っ只中。少々ロックっぽいリズム・ワークなども顔を見せジャズの貪欲な進化を知ることも出来ます。

 そしてこれもジャズ喫茶の定番アルバム。青春の思い出(?)に挙げるヴェテラン・ジャズ・ファンの諸先輩もいらっしゃるかもしれません。
 1ページ目で紹介したドナルド・バードの『フエゴ』もジャズ喫茶の定番なのですが、うむ、こう考えるとこの2枚には「なんだかわけがわからないけれど、にぎやかで楽しくなる」という共通点がある様に思います。
 ジャズ・ロック風の「ザ・ディップ」でココロウキウキ。歴史的名演である「リカード・ボサ・ノヴァ」は全ジャズ・ファン、ボサ・ファン、ブラジル音楽ファンまでも必聴と言えるでしょう。もちろん無意味に楽しいだけのアルバムではなくて、4曲目「ザ・ヴァンプ」では新しいリズム、新しいハーモニーに挑戦しようという彼ら−モブレーとモーガン−の心意気も伝わって来ます。

 ところでここで紹介した2枚を続けて聴くと、'54年のクリフォード・ブラウンの演奏と、'65年のリー・モーガンの演奏が意外に近いことに気付くはずです。実際、モーガンは悲劇の事故死を遂げたクリフォードの最も有力な後継者といわれ、将来を嘱望されていました、が、やはり'72年に悲劇的な死を迎えます。ジャズ・クラブに出演中、愛人に狙撃されるという...。

 「ふむ、ハード・バップというのはこういう風に伝わって行ったのか。間を埋める作品を聴かなくちゃなぁ。トランペットの系譜も気になるぞ。まずはモーガン名義のアルバムを聴くかな。ホレス・シルヴァーってのはこのあと何をやったんだろう?...」−これが地獄への第一歩(笑)。冒頭で述べたハード・バップという巨大な海の入り口です。

 あえてその道を歩むと言うのならば...まずはメッセンジャーズ名義のライヴをお試し下さい。モーガンならば超有名盤『サイド・ワインダー』('63)の他、この『ディッピン』と同じ'65年に発表された『ザ・ジゴロ』や『コーン・ブレッド』、翌'66年の『ディライトフリー』も人気盤のひとつです。さらにクリフォードの偉業もお忘れなく。一世を風靡したマックス・ローチ(ds)との共演盤『クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ』('55)や、死後に編集された『メモリアル・アルバム』('56)などがお薦めです。その後、ファンキー路線といわれたシルヴァーならばジャケットも素晴らしい『トーキョー・ブルース』('62)、『ソング・フォー・マイファーザー』('63)でしょうか...。
 いやまぁ、これも本当にわかりやすい初歩的なセレクションで、もっと通好みの渋い作品もあるのですが、あとは各自の責任でどうぞ(笑)。




リー・モーガンの
「コーンブレッド」
楽しい、わかりやすい




 歴史的名盤と人気の高い1枚。気持ちの良いセレクションですが、これをきかっけにこのあとどうなって知りませんよ(笑)。

 さて次は激しいだけがジャズじゃない。ジャズでココロのセンタクをしようという作品をご紹介。とっておきのアルバムも登場。あまりに好きなので、自分だけのものにしておきたくて本当は教えたくないくらいなのですが(苦笑)。




ハヤリの「癒しの音楽」なんてイラナイのだ
優れたジャズがあれば十分なのだ






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