00/01/23
第七回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
緊急ミニ特集
中級ジャズファン
ホントの愛聴盤




 女性ヴォーカルに浸りたい

その2 


 「ジャズと同じ位の広大さの"ジャズ・ヴォーカル"というジャンルがある」なんてことをその昔に書きましたが、インストゥルメンタルのジャズと同時に、ヴォーカル入りのサウンドも楽しめてしまうのがジャズの魅力にして至福。ここでは人気の高い女性ヴォーカルの名盤をご紹介しましょう。


Ella in Berlin:Mack the knife
ELLA FITZGERALD (vo)
314 519 564-2 (Verve)
1960

 度々書いていますが、世のジャズ・ヴォーカル志願女性よ、けだるく歌うのがジャズ、ではないのだ。まったく誰があんな間違った感覚を植えつけちまったのかな?TVでお馴染みの阿○泰子あたりかな。
 このアルバムの内容は...ジャケットが全てを物語っているなぁ(笑)、とにかく元気で、楽しくて、というライヴ・アルバム。もちろん無意味に明るいなどということはなく、抑えるところは抑えて、しっとりとしたバラードやブルースも聴かせています。ジャズ・スクールあたりの女性にも、こういう風に歌って欲しいもんだねぇ...。

 しかしエラ及びこのアルバムの人気はスゴイものがあります。友人も皆、「エラ大好き!」と言うし、このアルバムを愛聴盤に挙げる人は後を絶たないし。
 そりゃジャズ・ヴォーカルの女王は悲劇の天才、ビリー・ホリデイかもしれない。「でもちょっとビリーは重くて...実はエラの方が好きなんですよ」と、なぜかコソっと言う人が多いですね(笑)。まぁエラとビリーは「光と影」。それぞれの聴き方で楽しみましょう。

 '60年2月に行われたベルリン公演の模様を収録したこのアルバム、選曲の良さも魅力です。なにしろ聴きどころたっぷり。アルバム・タイトルにもなっている「マック・ザ・ナイフ」の他、「ミスティ」や「サマー・タイム」、「ラヴ・フォー・セール」「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」といったジャズの定番が目白押し。そしていずれも見事な名演です。CD化に際して4曲が追加され、当日のステージを完全に再現する内容になった、というCD時代に生まれてヨカッタと痛感する1枚でもあります(笑)。

 バックの演奏も素晴らしい。渋いギターが耳に残ると思ったら、巨匠ジム・ホールの演奏でありました。なおプロデューサーであるノーマン・グランツというオッサンはジャズの歴史のあちこちで登場するので覚えておきましょう。

 もしこれでエラが気に入ったならば、次はルイ・アームストロング(vo,tp)との共演盤『エラ・アンド・ルイ』('56)を強力にお薦めします。エラとサッチモのヴォーカルに、さらにサッチモのペット。1枚で2倍も3倍も楽しめる名盤です。


Once upon a Summertime
BLOSSOM DEARIE (vo,p)
314 517 223-2 (Verve)
1958

 いやいや、やっとディアリーが紹介出来る。このアルバムこそ若いジャズ・ファン、しかもロックから移って来た人に聴いて欲しい傑作です。

 数年前のこと、ある音楽雑誌を見ていたら、バリトン・サックス特集で私も紹介したジェリー・マリガン(brs)とアニー・ロス(vo)の共演盤を「渋谷系のルーツ」と書いてあった。うーむ、着眼点は面白いけれど、ちょっと違うような気がするなぁ。ロスのヴォーカルからも、あのアルバムのアレンジからも渋谷系(死語ですけど)的なものは全く感じない。それを言うならズバリこのブロッサム・ディアリーこそ渋谷系のルーツだ。ライター氏はディアリーは聴いていなかったのかな?

 短髪にメガネのディアリーはもうその存在感からして他の女性ジャズ・ヴォーカリストと一線を画しています。ヴォーカル・スタイルも独特。ウィスパー・ヴォイスまでは行かないけれど、非常にコケティッシュなヴォーカルはカヒミ・カリイ(vo)の元祖、という気もします。そんな声でちょっとスリリングな曲を真剣な雰囲気で歌ったりするもんだから、そのアンバランスさが堪らない!
 またディアリーの弾く寡黙なピアノもイイ。私は「ディアリーのピアノが好きだ」と恐る恐る発言したことがあるのだけれど、これが意外に賛同者多し。面白いモンです。

 こんな話もありました。ウルサガタのジャズ・ファンが集まった席で、なぜか話題がディアリーに及んで、私が「大ファンなんです」と言うと、なんと同席のオヂサン・ジャズ・ファン集団も一挙賛同。普段はコルトレーンの魂がどうしたとか、マイルスの天才さがこうしたとか、小難しいことばかり言っているハード・コア・ジャズ・ファンなのに、実はみんなこのコケティッシュ・ヴォーカルが好きだったんだなぁ...。

 それにしても各曲目に対するユニークなアプローチには驚きます。「こういう表現があったのか」と40年以上を経た今でも唸らされること必至。名曲「ティー・フォー・トゥ」は徹底的に甘美に、骨太な筈のミュージカル・ナンバー「飾りの付いた四輪馬車」もニューヨークの摩天楼を連想させる様なソフィスティケイトされたものになっていたりします。
 聴きモノはまずスリリングなブルースの「ウィ・アー・トゥギャザー」。わずか2分2秒の小品ですが、メロディー、アレンジのタイトさとディアリーのコケティッシュ・ヴォイスのミスマッチが最高です。わずか十数秒のディアリーのピアノ・ソロも素晴らしい。そしてエンディングで聴こえる♪closer,closer...のリフレインは涙モノですよ。
 ラスト近くの「ドゥープ-ドゥ-デ-ドゥープ」も面白い。♪ドゥ、ドゥリ、ドゥ...というスキャットから始まるユーモラスなナンバーをディアリーは水を得た魚の如く歌いこなします。これぞ、元祖・渋谷系。男性ヴォーカル(レコーディングに立ち会っていた作曲者のサイ・コールマン)との掛け合いが絶品です。

 このアルバムが気に入ったならば、次はデヴュー・アルバムの『ブロッサム・ディアリー』('56年)を是非。大きなメガネで歌うジャケットだけで、もう最高です。




ディアリーの
デヴュー・アルバム
こんなかんじ




 なんとも対照的な2枚になりました。かたや力強い母の様なヴォーカル、かたやコケティッシュなガールフレンドの様なヴォーカル。しかしどちらも同時期のヴァーヴ・レコードの作品で、プロデューサーは共にノーマン・グランツ、というところも面白いですね。さすがはヴォーカルの宝庫ヴァーヴ・レコード。いい仕事してます。

 さて次はお待ちかね「ハード・バップでブッ飛ばしたい」です。文句なしに痛快なサウンドが飛び出します。下のバカボン・パパをクリックして下さい。




モダン・ジャズ・ファンの終着点
ハード・バップに行くのだ






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