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98/01/01 サダナリ映画大賞 個人的ベスト・フィルム その2・1996年 |
■ 1996年のベスト・フィルム ■
順位 | タイトル | 制作年/国 | 監督 | 出演 | カテゴリー |
1 | ユージュアル・サスペクツ | 95年/アメリカ | ブライアン・シンガー | ガブリエル・バーン、ケヴィン・スペイシー | サスペンス |
2 | ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ |
93年/イギリス | ニック・パーク | ウォレス、グルミット、ペンギン・マッグロウ | クレイアニメ |
3 | 12モンキーズ | 95年/アメリカ | テリー・ギリアム | ブルース・ウイリス、マデリーン・ストウ ブラッド・ピット |
SFドラマ |
4 | トレイン・スポッティング | 95年/イギリス | ダニー・ボイル | ユアン・マクレガー、ロバート・カーライル | ドラマ |
5 | 探偵濱マイク「罠」 | 96年/日本 | 林海象 | 永瀬正敏、夏川結衣、山口智子 | サスペンス |
バカなことをやってしまった。この年、ヴィデオではなく、映画館で81本も観てしまったのである。では名作揃いだったかというと決してそうではなかった。「これはいいかな?」と思って観る、ちょっと期待ハズレ、「今度はどうかな」と思って観る...の繰り返しだったように思う。ハッキリ言って全体のレベルは95年の方が上、96年は「不作の年」だったと思う。 しかし上記の5本は文句なしに良かった。いずれの作品も「これだから映画ファンやめられない!」とまで思わせた名作である。それでは少々解説を。 |
『ユージュアル・サスペクツ』 チラシ これを配りまくった |
第一位 『ユージュアル・サスペクツ』 | |
とにかくショックだった。ラスト・シーンでは鳥肌はおろか「めまい」まで起こしてしまった。友人、知人に観てほしくて、カバンの中にチラシをごっそりと入れて自主的に「営業」して回った。そこまで気に入った作品である。 謎解きサスペンスなので、ストーリーを説明するのは難しいのだが...映画は貨物船の大爆発から始まる。舞台は現代のカリフォルニア、コカインの大量取引に絡むトラブルから爆弾が仕掛けられたのだ。死亡者は27人、生き残ったのは僅かに2人、重症のハンガリー人船員と左半身が不自由な詐欺師、ロジャー・ヴァーヴァル(おしゃべり)・キントだ。関税特別捜査官クイヤンはキントを呼び、事件の真相を究明する。 キントの話を聞き出すうちに、6週間前に起こったトラック強奪事件との関連が明らかになる。その時に「常習容疑者(ユージュアル・サスペクツ)」として集められたキントを含む5人の男が、今度の事件にも複雑にかかわっているというのだ。そしてこの2つの事件の影に存在する恐ろしい人物の存在が明らかになる。誰も見たことがないと言われる伝説の大物ギャング「カイザー・ソゼ」である。 一連の事件の全てはカイザー・ソゼが操っている。自らの手を汚さずに緻密な作戦で巨万の富を得ているのはソゼなのだ。ソゼとは一体誰なのか、爆発で死んでしまったのか、それとも元々実在しているのか...。 この映画の面白さを文章で説明するのは不可能だろう。それほどまでに極めて映画的な作品なのだ。人物は交錯し、エピソードも多い。しかし、捜査官クイヤンとキントとの対話、主にはキントの独白という形で進められる本編はきわめてクリアで、スリリングだった。監督と脚本家と、キント役を務めたケヴィン・スペイシーのただならぬ力量によるものである。 監督のブライアン・シンガーは弱冠29歳、衝撃のデビュー作『パブリック・アクセス』に続いてこれが2作目である。インディペンデント(自主製作)映画出身、恐ろしい才能の登場だ。大きく宣伝されることのなかったこの作品だが、本当にどうしようもなく面白かった。これを観てしまうと派手な宣伝をされた同年のメジャー作品『セブン』が子供騙しの「東映マンガまつり」に思えてくる。本当に『セブン』を観た人はこの『ユージュアル・サスペクツ』も観て比較をして欲しいと思う。「本当の映画の面白さ」に気付くと思う。ちなみにキント役のスペイシーは『セブン』でもある重要な役を演じていた。 クイヤンは5人の中の元・汚職警官キートン(バーン)がソゼではないかという結論に達する。ヴァーバルもキトーンが中心になって計画が進められたことを認める。クイヤンはキントに言う「お前も可哀相にな、仲間だと思っていたキートンにうまく利用されていたんだよ」、キントはショックでだらしなく泣き出してしまう、しかし...。 ラストシーンで全ての真相が明らかになる。クイヤンはショックのあまり飲みかけのコーヒー・カップを落としてしまう。私がめまいを覚えたのはこのシーンだ。そして、割れたコーヒーカップの裏にまでも、ひとつの謎解きが仕掛けられていた。まさか、そこまで...。 |
第二位 『ウォレスとグルミット・ペンギンに気をつけろ』 |
しかしこうやって並べると、この年は新しい才能に出会う年だったのかもしれないな。冒頭に「不作の年」と書いてしまったが丁度新旧世代の入れ代わりの年、過渡期だったのかもしれない。 |
熱狂のクライマックス 左から マッグロウ、ウォレス そしてグルミット 1日に撮影出来るのは わずか数秒だという |
主人公は珍発明家であるウォレスと、飼い犬のグルミット。実はこのグルミット、「犬のための電子工学」などを愛読する天才犬なのだ。そこに下宿人のペンギン、マックロウが登場する。ところがコイツが大泥棒。ワナに嵌まった二人は...。 本国イギリスでは94年のクリスマスに放映され40%以上という驚異的な視聴率を記録したクレイ(粘土)アニメの傑作が遂に日本上陸。監督のニック・パークは38歳、イギリスのTVCM界で活躍し、劇場公開作品はこれが初めてだそうです。ロック・ファンにはお馴染みの、ピーター・ガブリエルの名作ヴィデオ・クリップ「スレッジ・ハンマー」(86年)を作った人と聞いてちょっと驚きました。 しかし良かったなぁ。ただの可愛い人形劇ではないのだ。ヒッチコック・テイストのサスペンスと、インディー・ジョーンズばりのアクション、そして『モロン』のようなきめの細かいブリティッシュ・コメディの伝統等々、アニメ手法云々を越えて、映画としての完成度の高さも評価すべきだと思います。 個人的にはワルモノのペンギン・マックロウが良かった。完全犯罪を狙うもちょっとした計算ミスがあり、アセって冷や汗を流すんですが、棒キレに小豆を付けたような顔なのに「焦っている表情」がわかるんですよ(笑)。撮影に数週間を費やしたという鉄道模型が疾走するクライマックス・シーンも素晴らしかった。場内大喝采、どよめきと拍手が沸き起こっていました。いやぁ、盛り上がった盛り上がった...。 対象的だったのがこの作品に影響を受けて作られたというディズニーの『トイ・ストーリー』(あのカー・チェイスはこの作品のクライマックスからヒントを得て作られたらしい)。あちらは全編コンピューター・グラフィック、こちらは粘土を数ミリずつ動かして...。アメリカの合理主義的テクノロジーと、イギリスの頑固な職人気質の対決ですが、私はもちろんイギリス側を支持しますよ! 残念なのが日本でのビデオが、すべて「日本語吹き替え版」になってしまったこと。しかも吹き替えが萩本欽一ってのはちょっとイメージ違うぞ。「誰がいいだろう?」と映画好きの友人と協議した結果「斉木しげるはどうだ?」ということに相成りました。配給会社の方、もしご覧ならばご一考を!(きたろうなんてのもイイね)。 |
三位以下の作品
『12モンキーズ』も良かった。世紀の名作『未来世紀ブラジル』(85年)以降、『バロン』(88年)『フィッシャー・キング』(91年)とちょっと停滞していた感のあるテリー・ギリアム監督の会心のヒットといえるでしょう。 アメリカ、フィラデルフィア。21世紀初頭、未知の細菌に侵された人類はその99%が死滅。地下での生活を余儀なくされる。その原因を究明するために、科学者グループによって「事件」が発生した1996年のクリスマス・シーズンに送り込まれる主人公のコール(ブルース・ウィリス)。そこで明らかになる謎の集団「12モンキーズ」。果たして真相は...時空を超えた「時のジェットコースター・ムーヴィー」である。 例によってストーリーは複雑ですが、ギリギリのところで万人向けエンターテイメントの線を保っていると思いました。その意味ではカルト色の強かった『ブラジル』よりも良く出来た作品かもしれません。しかしよく出来たストーリーだったな。重要なキーとなる留守番電話のセリフ「メリークリスマス!」を思わず一緒につぶやいてしまった。 ギリアムといえば音楽も重要なポイントのひとつ。サッチモの「ワンダフル・ワールド」がラストでしたが、なんといってもホワッツ・ドミノの「ブルーベリー・ヒル」がいい!2035年の世界では、地下の檻の中に閉じ込められている主人公が、1996年のカーラジオで聴く「ブルーベリー・ヒル」。「いいなぁ、20世紀の音楽は」というセリフに思わずグっと来てしまった(プログラムでは映画評論家の渡辺祥子女史が「思い出のグリーングラス」と思いっきり間違えているが)。大ブームとなっている故アストル・ピアソラのバンド・ネオンも超効果的、あの曲なしにはこの映画は考えられません。 しかし、つくづく「良く出来ているなぁ」と思ったのが、後半で逃げ込む映画館がヒッチコック特集、しかも『めまい』の切り株のシーンを上映しているというところ。「アメリカ映画らしからぬ渋い引用!」と唸ったが、考えてみればギリアムはイギリスの「モンティ・パイソン」に参加した唯一のアメリカ人。タダモノではないのだ! 『トレインスポッティング』も参った。こんな映画があったとは。公開時のコピーが「タランティーノはもう古い」、その通りだと思います。英語版コピーも"Hollywood come in...Your time is up"(きやがれハリウッド、あんたの時代は終わったよ)、頼もしいじゃないですか! 「陽気で悲惨な青春映画」とは配給会社が用意したコピーだが...確かにその通りですね。凋落する英国の中でも、特に逼迫しているスコットランドの都市、エディンバラ。職にあぶれセックス、ドラッグ&ロックン・ロール(そしてサッカー)を地で行く、というか他にやることもない5人の若者達。友情の影にキレた裏切りがあり、ホロ苦い慈悲もある。この胸が締めつけられるような切ない物語、絶対にアメリカでは創れない。 考えてみれば、あれだけ良質な音楽を生み出しているイギリスに、同じ感覚でクールでパワフルな映画が作れないわけがない。監督ダニー・ボイルの登場はいわば「時代の必然」だったと言えるでしょう。まぁ妙なストーリーだったけどね。「5人の登場人物の中で誰が好きか」というのが話題になったけれど、私はなんとも#5のスパッドが好きだったな。だからラスト・シーンには感動したぜ! 上の文章からはなんとも伝わり難いが、この映画、ドラッグ賛美のパンク・ムービーではない。痛烈かつファッショナブルなアンチ・ドラッグ・ムービーである。「毒をもって毒を制す」とでも言おうか...。とっつき難い題材だし、紹介文からはどんな作品なのか極めて分かりにくいと思うが、ともかく観て欲しい。後味の良さは絶対に保証する! ちなみにこれはボイルの2作目。第1作目の『シャロー・グレイヴ』も観ました。『シャロー...』での注目はインテリ・スポーツ・ジャーナリスト役のユアン・マクレガーでしょう。なんと『トレインスポッティング』でリーダー格をつとめたパンク小僧、レントンと同一人物。只者じゃねぇなマクレガー! しかしこの翌年『フル・モンティ』、『ブラス !』と現代イギリス映画の大逆襲が始まろうとは、予測もしていませんでしたよ。しかも俳優がダブるとは...。 |
『トレインスポッッティング』 イギリス版オリジナルポスター So cool ! So lovely ! |
邦画唯一のチャートインは探偵濱マイク三部作の完結編、『罠』。まぁ、どうしても三作を比較してしまうのだが...個人的ベストは二作目の『遙かな時代の階段を』(94年)かな。理由はふたつ「横浜が良く描けていた」「人間ドラマが濃厚だった」からです。 この『罠』、多重人格者、サイコパス、手話など、世間のトレンドに乗っているところがあってね。なんか真性マイク・ファンとしては「マイクにはトレンドなんかに走らないで欲しい」というわがままな希望があってですね(笑)。でも十分面白かったですけど。 しかし本当にシリーズ終わってしまったのだろうか?いつものテーマ曲に乗せた「俺の名前は濱マイク、本名だ。俺はこの生まれ育った横浜で...」のセリフはもう聞けないのかな。舞台となった横浜日劇その場所で濱マイクを観る(神奈川県民ならではの)至福はもう味わえないのかと思うと残念でたまりません。それにしても、水面に消えたミッキーって、一体誰だったんだろう...。 |
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■ 部門賞と雑感■ | ||||||
俳優のベストは左記の通り。1のケヴィン・スペイシーは文句なし、今年はこの人の年だろう。『セブン』、『ユージュアル・サスペクツ』とハードな作品に2本も出演し渋い演技を見せた。制作・主演の『ロンリー・プレイス』(96年公開済)は残念ながら未見、早くどこかでチェックしたい。初の監督作品『アルビノ・アリゲーター』は98年2月の公開が決定した、わくわく! ベストチャートにこそ登場しなかったものの、ショーン・ペンも大活躍の一年だった。主演作品『デッドマン・ウォーキング』、2本目の監督作品『クロッシング・ガード』ともタップリと魅せてくれた。 実はショーン・ペンは88年の主演作品『カラーズ』以来気になる存在なのだ。あの作品を監督した怪優デニス・ホッパーに刺激され、91年に初の監督作品『インディアン・ランナー』を発表。『インディアン...』は病んだヴェトナム帰還兵、そして今回の『クロッシング・ガード』では交通事故で愛娘を失った父親と、ゴリゴリの社会派テーマが続く。おい、本当にマドンナとの結婚劇でマスコミ相手に大立ち回りしたあのチンピラ兄ちゃんなのかい? 主演作品『デッドマン・ウォーキング』ではシリアスな死刑囚を演じベルリン国際映画祭主演男優賞を受賞。しかもその『デッドマン...』を監督しているのがこれまた俳優のティム・ロビンスだというのだから面白い。日本にはこんな才能は出て来ないのかな? 3番目に「濱マイク三部作」完結を祝して永瀬正敏を。永瀬って自分で映画撮る気はないのだろうか? |
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音楽で気になったのはまずはこの3つ。バルカン・ブラスは舞台となった旧ユーゴスラヴィアの伝承音楽だが、一聴するとスカやパンク、ツイストの様にも聴こえ、かなりインパクトがある。『アンダーグラウンド』は95年のカンヌ映画祭大賞受賞作品で、時代に翻弄されたユーゴの50年間を約3時間で観せるという結構重いテーマなのだが、なんともユニークなジェットコースター・ムーヴィーに仕上がっているのはこの音楽の力が大きい。 「ブルーベリーヒル」は前述の通り。アンダー・ワールドはやっとクラブ系のテクノを効果的に使う監督が出て来たということで。 あとは『デッドマン・ウォーキング』で使われたヌスラット・ファテ・アリ・ハーンのカッワリーは印象深かった。まさか、あんなところで聴けるとは...。 |
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前述の通り、過渡期だったのかもしれないですね。あと「まぁまぁ」の作品がゴマンとあっのも特徴のひとつ。思いつくだけでも『Shall
we ダンス』『ガール6』『ケロッグ博士』『いつか晴れた日に』『デスペラート』に、前出の『シャロウ・グレイヴ』『デッドマン・ウォーキング』『クロッシング・ガード』などなど。 なんとなく、ここ数年で話題を呼んだ新人監督が息切れして、更に新しいパワーが現れはじめているような気がしました。あんなに面白かったウォン・カーウァイも『天使の涙』、『楽園の瑕』ではなんか「お疲れ」だったし、タランティーノも(監督作品ではないが)『フロム・ダスク・ティル・ドーン』は行き当たりばったりの感があったな(ラストの崖下のカットは秀逸であったが)。監督賞を選ぶとすれば、『ユージュアル・サスペクツ』のブライアン・シンガーと、『ウォレスとグルミット』のニック・パークか。 なお話題の岩井俊二も2本ばかし観ましたが、まぁ、普段映画を観ないロック系のお兄ちゃんお姉ちゃんが観たら、雰囲気に巻かれて「ステキ!」とか感じるのかもしれませんが、我々映画ファンはもっと素晴らしい物語を描ける実力派の監督を知っていますからねぇ。「悪くはないが、取り立てて言う程のモノではない」と思いました(しかし同年発表のムーンライダーズのプロモーション・ヴィデオ「ニット・キャップ・マン」は完璧な出来であった)。 個人的には「シリーズもの制覇」の年でもありました。「ジャック・タチ」、「MGMミュージカル」、「ゲーンズブール」、「ルイ・マル」などシリーズ券買って通いまくってました。なんシリーズ物制覇って異常な充実感あるんですよね(笑)。結構な労力なんですけど。それぞれの作品についてはいずれ、このコーナーにて。 ちなみに旧作では『不思議なクミコ』(60年代の日本のドキュメンタリー。フランス製作の不思議な映画)、ヒッチコックの『バルカン超特急』(やっと観れた!良かった!)、『アイドルを探せ』(あんなに良い映画だったとは!)が印象に残りました。 |
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