00/01/30 監督 川島雄三傳 私的ベストテン |
選定・定成寛 |
川島作品鑑賞ガイドとしてもお使い下さい |
第一位 |
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[ひとこと] 川島の最高傑作は『幕末』ではありません!喜劇にして悲劇、これぞ川島。あっと驚く豪華キャストにも注目。 |
[かいせつ] 山本周五郎の自伝的人気小説を映画化。東京との県境の町、千葉県"浦粕"に移り住んだ作家センセイ(森繁)の周りで起こる、その町の人々のあまりにも人間臭い出来事を抒情的に描く大傑作。川島作品の中で最も感動的。ニューヨークでも上映され評判を呼んだ。 |
[みるには] ビデオ未発売。CSでの放映は多い。名画座でもたまに上映。 |
第二位 |
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[ひとこと] まだ『幕末』は出て来ない(笑)。川島にしか撮れない密室劇の傑作。 |
[かいせつ] 都内にある僅か2Kのマンションを舞台とした愛憎と金銭欲のドラマ。喜劇仕立てで極めてブラックな笑いを呼ぶ。全編を通じてキャメラがその部屋から出ないという斬新さも。森田芳光監督『家族ゲーム』、崔洋一監督『東京デラックス』のヒントか?川島作品の中で最もスタイリッシュ。デザイナー信藤三雄氏も「感動した」と語る一本。お薦め! |
[みるには] 大映からビデオ発売あり。CS放映、名画座上映も多い。 |
第三位 |
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[ひとこと] やっと『幕末』登場。川島作品の中ではNo.3くらいです。しかし傑作。 |
[かいせつ] 明治維新まであとわずか、文久二年の品川宿の大店「相模屋」を舞台に、川島の分身、奇才・佐平次(フランキー)が大活躍。「居残り佐平次」「品川心中」「明け鴉」など古典落語のオムニバスを軸に、川島一流のシニカルな喜劇が繰り広げられる。日本喜劇映画の金字塔とまでいわれる名作である。川島作品の中で最も精緻。 |
[みるには] 日活からビデオ発売あり、DVDも出た。TV放映、名画座上映も多い。 |
第四位 |
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[ひとこと] 忌野清志郎の「君が代」に通ずる破壊力。よくぞここまでやってくれたという怪作。国旗・国歌法の時代に是非再評価を! |
[かいせつ] 敵国の攻撃を受け、南海の孤島に流れ着いた皇族軍人コンビ(森繁・フランキー)と慰安婦の一団をパロディ精神たっぷりに描く怪作喜劇。天皇制批判と共に反原水爆、沖縄問題も。川島初のカラー映画でもある。川島作品の中で最も辛辣。 |
[みるには] キネマ倶楽部からビデオ発売あり。CS放映、名画座上映もたまにある。 |
第五位 |
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[ひとこと] 昭和31年の和製フィルム・ノワール。そぎ落とされた演出に感服。 |
[かいせつ] 東京の赤線地帯「洲崎パラダイス」入口の一杯呑み屋を舞台に描かれる女将(轟)とその亭主(植村)、どこからともなく流れ着いたダメ男(三橋)、ダメ女(新珠)などの人間模様。やるせなさたっぷりの傑作。映画監督・石井聰互は川島のベストに挙げている。川島自身が最も気に入っていた作品でもある。 |
[みるには] 日活からビデオ発売あり。CS放映、名画座上映もたまにある。 |
第六位 |
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[ひとこと] ラストシーンにおけるベルナルド・ベルトルッチ監督との共通性、何人の方がお気づきでしょうか。オープニング・タイトルも秀逸! |
[かいせつ] 水上勉の直木賞小説の映画化。洛北にある名刹の住職(三島)とその愛人(若尾)、そこで修行する少年僧(高見)の物語。若尾文子が「雁がいいひん!」と叫ぶラストのショッキングさには息を飲む。川島作品の中で最も悲劇的。 |
[みるには] 大映からビデオ発売あり。CS放映、名画座上映もたまにある。 |
第七位 |
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[ひとこと] ラストシーンで落涙止まらず。川島が得意とする"ジェネレーション・ギャップ"表現の秀作。あまり話題にならないが、川島作品の中では重要。 |
[かいせつ] フィリピンの難工事で名を馳せた"ベンゲットのターやん"こと佐渡島多吉(辰巳)の半生と、彼が暮らす大阪下町の我太郎長屋の明治、大正、昭和を描く。南田洋子が多吉の妻と孫の二役を演じた。人情物の様に見えて、隠されたテーマは実は壮大である。辰巳柳太郎、殿山泰司の名演も光る。 |
[みるには] ビデオ未発売。BS、CS放映、名画座上映もたまにある。 |
第八位 |
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[ひとこと] 川島単独脚本によるハードコア"川島喜劇"。舞台演劇の様な結末には息を飲んだ。有名な作品ではないが個人的にはものすごく好き! |
[かいせつ] 銀座の質屋に婿入りしたジャズ・ドラマー(フランキー)は義母と嫁にいびられ家を飛び出す。そこに巨額の遺産話が飛び込んで...。数分に及ぶメイン・タイトル前のナレーション(アバン・タイトル)に驚くが、実はそれにも重要な意味がある。意外に最も"川島臭さ"が出ている作品かもしれない。 |
[みるには] ビデオ未発売。CS放映、名画座上映ともごくまれ。 |
第九位 |
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[ひとこと] 人間のおかしさ、かなしさ、わびしさを描いた秀作。ラスト近くの「昆布になってしもた」は小津を上回る無常観。笑いながら、泣いてしまう。『わが町』同様のジェネレーション・ギャップ表現の傑作。 |
[かいせつ] 明治末期、淡路島から大阪に出て来た少年が昆布屋の丁稚奉公にはじまり暖簾分けを受けて大店の主人になるまでを描いたモデル小説の映画化。明治期の丁稚時代から戦後デパートのテナントに立つまでのスケール感が面白い。父子を森繁が二役で演じ、合成で会話をする場面も。川島の父親が「四回観て四回泣いた」という逸話もある。 |
[みるには] キネマ倶楽部からビデオ発売あり。名画座上映はごくまれ。 |
第十位 |
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[ひとこと] 賛否両論入り乱れる怪作。形而上学的解釈が必要か?戦中派・川島の悲痛な叫びでもある。 |
[かいせつ] 大阪近郊の奇怪な"アパート屋敷"に住む、これまた奇怪な人々を描くコメディ。戦後民主主義と日本人のアイデンティティの関係をハチャメチャ喜劇に仕立てて訴えたかったが、一般には理解されなかった無念の作。ラストシーンの「サヨナラだけが人生だ」は川島を表す有名なセリフ。必見の一本である。 |
[みるには] キネマ倶楽部からビデオ発売あり。名画座上映もたまにある。原作者・井伏鱒二氏(気に入っていなかった)の遺言によりTV放映は不可能。 |
次点としては製作順で『シミ金のオオ!市民諸君』(昭和23年/松竹)、『とんかつ大将』(昭和27年/松竹)、『学生社長』(昭和28年/松竹)、『愛のお荷物』(昭和30年/日活)、『赤坂の姉妹・夜の肌』(昭和35年/東京映画)など。 なかでも『とんかつ大将』の昭和20年代末のクリスマス風景、『愛のお荷物』の軽妙さ、『赤坂の姉妹』の古き良き東京は印象深い。 「部門賞」的に評価すると、まず音楽が優れているのがビッグバンド・ジャズ調の『接吻泥棒』(昭和35年/東宝)と、ルンバをフィーチャーした『洲崎パラダイス・赤信号』で、担当は前者が黛敏郎、後者は眞鍋理一郎。 オープニングの秀逸さは『青べか物語』、『幕末太陽傳』、『愛のお荷物』、『箱根山』(昭和37年/東宝)、『雁の寺』といった順か。『青べか』の空撮とナレーション、『愛のお荷物』の「5秒間に1人!」、『箱根山』の観光バスのカーチェイス(名画座でどよめきが起こる)、そして『雁の寺』のクレジット、真っ逆さまに落下する雁の絵に「監督・川島雄三」が重なる場面などいずれも素晴らしい。 名演、名場面、名セリフについてはいずれゆっくりと。 |
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