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97/10/04
第二回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
’さあ、最初の1枚は?’
お薦めCD23連発





 にぎやかで楽しいヤツを聴きたい
 ビッグ・バンドをどれか


気分その7 


 しかし、まぁ、ここでクインシー・ジョーンズ『ビッグ・バンド・ボサ・ノヴァ』('63)を薦めてしまうというのが、なんとも、サダナリ的。王道を行くジャズ評論家諸先生方から「バカモ〜ン!あんなの色物じゃ!」と大目玉をくらいそうですが。でも、これ最高にカッコイイですよ!にぎやかでしょ、楽しいでしょ、ビッグ・バンドでしょ。ホラ見ろ、全部条件にマッチしてるじゃないか。文句あるか!


"Big band bossa nova"
Quincy Jones
(814 225-2 Mercury)


 オープニングの「ソウル・ボサ・ノヴァ」は数年前、「シャツを履くと『シャンツ』になる」といってネクタイが股間でプラプラするTV史上に残る超ダサダサCMに使われていました。あれでイメージ悪くなっちまったじゃねぇか!責任取れ、東京モード学園!しかしこの曲の再評価はめざましいものがありますね。テイ・トウワの曲でもモロにサンプリングされていたし、あとイタリア映画『悪い奴ほど手が白い』のサントラにもそっくりなリズムが出て来たけど、あれはどっちが先だろう、ブツブツ....すいません「世界一マニアックなジャズ入門」になってしまいました。ごめんなさい。
ちなみにこの曲で聴かれる「ドゥードゥー」言ってるフルートの「歌い吹き」を「ハミング奏法」といいます。これが本当にソウルフルでカッコイイのだ!素人がマネするとフルートの音が出なくて、ただ「ズーズー」口で言ってるだけになってしまって超笑い物ですが(笑)。

もちろんもちろん「黒いオルフェ」や「セレナータ」など、しっとり聴かせる曲もやっています。ここでもフルートが効いていますね(多分ローランド・カーク)。しかし、このアルバム・タイトル、ジャケット・デザイン、そして絶妙のアレンジ。クインシーってのは凄いね。きっとヒットのツボを知っているんだろうな。

 1999年の大追記。この「ソウル・ボサノヴァ」、1998年に超大ブレイク!まずNIKEのTVCM(空港のロビーでサッカー編)に使われ、そして、あのおバカ映画『オースティン・パワーズ』のメイン・テーマになったのだ!しかも'98年秋に国内盤も発売。あの曲はこのCDに入っているぜ、ベイビィ!


 クインシーがあまりにユニークなので、あと1枚は超王道をご紹介。デューク・エリントン楽団『ザ・ポピュラー・エリントン』('66)です。特にエリントンの代表曲「A列車で行こう」が素晴らしい!最初はピアノで始まって管楽器はじっと待っている。ピアノがワン・コーラスやったころで有名なイントロが出て来て一斉に管が鳴り始める。この時、本当にゾクゾク来ますよ!華やかなブラスの響きを聴いていると「ジャズだぜ!」って感じでなぜか満面の笑みを浮かべてしまうんだなぁ、これが。この楽しさこそ後期エリントンの最大の魅力でしょう!


"The Popular
Duke Ellington"
(BVCJ-7342 Victor)


 注目すべきは'30年作の「ムード・インディゴ」、'27年作の「黒と茶の幻想」そして同時代の代表曲ともいえる「ザ・ムーチ」が全く古さを感じさせることなく演奏、収録されていることでしょう。不思議だなぁ。この時点で既に40年も経っているのに。演奏も自然だし、鮮度も十分。うーん、エリントンというのも怪物ですね。そうそう、エリントン自身が弾く華麗なピアノも聴きモノですよ。

 あとひとつだけ。バリトン・サックスのハリー・カーネイにも注目。エリントン楽団に50年間在籍した(!)まさに「エリントン楽団の顔」。ビッグ・バンドの片隅に埋もれていた低音楽器のバリトン・サックスをソロもとれる楽器として表舞台に引っ張り出したのがこのカーネイ。モダン・テナーの創始者、コールマン・ホーキンスと並んでサックス界の偉人のひとり、ではあるが楽器がバリトンゆえにちょっとマイナー。サラリーマン・バリトン奏者サダナリからすれば「ご先祖様」のような存在なんですが。'74年5月にエリントンが亡くなったあと、同年10月に後を追うようにカーネイもこの世を去っている、というのがなんとも人生を感じさせますね。カーネイのバリは「バーディド」「黒と茶の幻想」などでバリバリ聴けます。バリバリ。







 ラテン、ボサ・ノヴァに興味がある
 そんな感じのジャズは?


気分その8 


 ボサならば、絶対に、この2枚。まずはアメリカ人テナー奏者、スタン・ゲッツとブラジル人シンガー、ジョアン・ジルベルトのジョイントによる『ゲッツ/ジルベルト』('63)ですが、さて、先にちょっとボサ・ノヴァについて説明しておかないと。


"GETZ/GILBERTO"
(POCJ-1802 Polydor)


 ここで挙げる作品はボサ・ノヴァと言っても、アメリカ産ポピュラー・ミュージックとしてのボサ・ノヴァである点にご注意下さい。正直これを「ホンモノのボサ・ノヴァ」だと思われてしまうとブラジル音楽ファンでもある私としてはちょっと困る。ボサ・ノヴァの誕生は'58年、ブラジルはリオ・デ・ジャネイロでのことでした。中心人物はロベルト・メネスカル、ジョアン・ジルベルト、そしてこのアントニオ・カルロス・ジョビンの3人。彼らをはじめとするリオの音楽好き達が、まだ15歳だったのちの歌姫ナラ・レオンのマンションに溜まり「何か新しい(Nova)波(bossa)を」として誕生したのがボサ・ノヴァである。というのが、ま、いわば「ボサ・ノヴァ正史」でしょう。まさにブラジル音楽における「ニュー・ウェイヴ」だったんですね。
'50年代末から'60年代にかけて、現地ブラジルでは彼らにより数多くの名作が発表されていますが、それは「ジャズ」ではありませんよ。この頃のボサはいわば「オリジナル・ボサ」で残念なことにそれほどポピュラーではないなぁ。一部のブラジル音楽ファンが熱心に追いかけているくらいでしょう。それに対し'60年代前半にアメリカで量産されたのが、うーん、なんというか「米国産ボサ」?今日「ボサ・ノヴァ」として親しまれているものの多くが実はこの「米国産」です。いいとか悪いとか、正しいとか間違っているとか、そういうハナシではありませんが、一応区別しておきましょうか。
 ま、気楽に楽しんでしまえばいいんです。私の基本的なスタンスは「オリジネイター達は偉大である。でも、米国産、フランス産それに日本産だって思いっきり楽しんじゃえ!」ですよ。

そのブラジル音楽における「ニュー・ウェイヴ」がアメリカで大人気を博したのは'62年のこと。この年の夏から秋にかけてスタン・ゲッツとチャーリー・バードという2人のアメリカ人ジャズ・メンによって作られた『ジャズ・サンバ』というアルバムが大ヒットしています。なかでもシングル・カットされたジョビン作の「ディサフィナード」はビルボード(またしても登場)の15位にまで上がる健闘を見せました。これに気を良くしたのか、翌年ゲッツはボサの続編を今度は現地の大御所、ジョアン・ジルベルトらをニューヨークに招いて創ります。それがこの『ゲッツ/ジルベルト』です。メンバーはゲッツ、ジョアンの他、ジョアンの妻アストラッド・ジルベルト、ボサの創始者のひとりアントニオ・カルロス・ジョビンなど。それゆえ、この作品は単なる「米国産ボサ」ともちょっと違う。ま「ブラジル・オールスターズ遠征試合」しかも「敵陣にて大勝利」って感じでしょうか。むふふ、ちょっと、愉快ですネ。
 曲は、名曲ぞろい!文句ナシ!「イパネマの娘」「ディサフィナード」「コルコヴァド」「ソ・ダソ・サンバ」「オ・グランジ・アモール」などなど、どの曲もボサの必修科目ですよ!特にのちの”ボサ・ノヴァの女王”アストラッドの歌声に注目。良く言えばこのアルバムで「始めて歌手となった」、分かりやすくいえば「それまでは単なる素人」。ウワサでは旦那のレコーディングにたまたま居合わせて「ちょっと歌ってごらんよ」的ノリで歌ってしまったらしい。ハッキリいってヘタです。音程も怪しいし、リズムも見事にコケている(3連が取れずに明らかに間違えているところもある)。でも、なんともいえない味があって、気持ちいいんだなぁ。

 しかし、こうやって改めて考えてみると、'80年ごろのイギリスや日本の「パンク・テクノ・ニューウェイヴ・ムーヴメント」に実に似ていますね。発生の感じや、細かいエピソード、ヘタウマなところなど実に「あのころのニューウェイヴ」的なものを感じます。今風に言えば「アンプラグドなパンク・ニューウェイヴ」ってところかな?
 ちょっと難しい話になるけれど、このボサ・ノヴァのように大衆の中からムーヴメントが発生する、というのはブラジル文化の特徴のひとつと言えるでしょう。ボサ発生から丁度10年後の'68年、さらに新しい動きとして発生したのが、MPBに代表される「トロピカリズモ」という運動です。政治的なニュアンスも含み、ボサよりも過激に展開したトロピカリズモ(ボサ時代との違いはロックと電気楽器の影響が大きいところ?)は'60年代ブラジルに於けるパンク・ムーヴメントだったのか?ちょっと難しい命題ですね。結論はいずれ再度のブラジル音楽特集にて(MPBについては9月のバックナンバーのブラジル音楽特集をご覧下さい)。


 あと1枚、今度はアントニオ・カルロス・ジョビンが主役になってやはりアメリカで創られた『WAVE』('67)をご紹介しましょう。タイトル・チューンの「WAVE」は超有名曲。絶対に聴いた事があります!しかしブラジル人ミュージシャンってのは多才ですね。作詩、作曲、ヴォーカル、ギター、ピアノ、何でもやってしまう。収録曲は全曲ジョビンのオリジナル、当時としては極めて珍しいマルチ・チャンネル録音でピアノ、ギターにヴォーカルまで演っている。うーん、もう「音楽が服着て歩いてる」ようなもんですよ。


"WAVE"
Antonio Calos Jobim
(POCM-5016 Polydor)


 さらに一言だけ。実はこの2枚、プロデューサーが同じなんです。クリード・テイラー。この名前は覚えておきましょう。ハリウッドのA&Mレコードに招かれ、自らのレーベル「CTI」を創設、第一回新譜として発表したのがこの『WAVE』と、ウエス・モンゴメリーの『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』でした(『ア・デイ....』については前回のジャズ100年史をご覧下さい)。A&Mはこの他に世界最大のボサ・ヒット「マシュ・ケ・ナダ」で知られる"セルジオ・メンデス&ブラジル66”、 20世紀最大のポピュラー音楽家バート・バカラック、ソフト・ロックの神様”ロジャー・ニコルス・アンド・ザ・スモール・サークル・オヴ・フレンズ”、そして大御所、アメリアッチ・サウンドのハーブ・アルパートなども在籍。夢の様なレコード会社だったんです。テイラー、A&Mともいずれ特集しなければ!


 「気持ちいい!こんなのもっと聴きたい!」という人に、もう一枚オマケ。ボサ・ノヴァ・タッチのジャズ・ナンバーを集めたコンピレーション盤『ブルー・ボッサ』('91)はいかがでしょう。



"Blue Bossa"
(CDP077779559022
Bule Note)

Ike Quebec
Horace Silver
Hank Mobley
Eliane Elias
etc

これは古いデザイン
現在は音譜二つの絵
中身は同じ


 これは、まぁ、ブルーノート・レーベルの大物達がボサに手を出したヤツを集めた「米国産ボサ」の決定版ですが、アメリカに於けるジャズとボサの関係を理解するには最高のアルバムにもなっています。実は私の愛聴盤、友人達も皆持ってますねぇ。私はこれでアイク・ケベック(ts)に目覚めました。アイクのテナーには友人達も皆ブッ飛んでましたよ。みんさんも収録の14組の中からきっとお気に入りが見つかることでしょう。お薦めです!







 熱いジャズを聴きたいぜ!ソウルフルなのを教えてくれ

気分その9 


 コテコテ、イッちゃいますか(笑)。まずは一冊のバイブルを紹介しなければ....。'95年8月にジャズ批評社から発行されたその名も『コテコテ・デラックス』(原田和典著・'95年8月ジャズ批評社刊¥1800)、主に'60年代後半から'70年代初頭、時代の流れを受けてコテコテ化、いや、ソウル化、ファンク化していったジャズをこれでもか!と書きまくった名書です。コテコテとは、要するにイイ顔の黒人さん達が演ってた「濃ゆ〜い」ジャズのことなのだ。そしてこれが最高にキモチイイのだ!

これが『コテコテ』
 しかし、この本はスゴイね。「オルガンなんてイロモノだよ」「エレクトリック過ぎるな、これじゃソウルのインストさ、ジャズじゃないネ」などと蔑まれて来たソウル・ジャズ、ジャズ・ファンクを最高の愛情を持って書き綴ってる。あとがきが泣かせます!「僕のような人間にとって、この本で紹介できたような音楽がなければ、ジャズ雑誌の編集はおろか、いま社会に存在していたかどうかすら疑問です。(中略)彼らは無言のうちに、どんな学校で習うよりも大切なことを教えてくれました。そんな”心の師”の偉業をまとめることができて、いま僕は、感無量です」。あまりに名文なんでちょっと長めに転載してしまいました。そう!全ての音楽は等しく評価され、愛されるべきです!音楽に貴賤はナイ!キワモノ、ゲテモノに人生を救われた音楽ファンだって沢山いるのだ!
 残念ながら『コテコテ』で紹介されている数百組、数千枚のアルバムは紹介しきれないので、コテコテ・テイストのコンピレーションを2枚だけ。まずはラテン系コテ、ロンドンのビート・ゴーズ・オン・パブリック・レコードから出ている『ザ・ベスト・オヴ・ラテン・ジャズ』('92)です。


"The best of latin jazz"
Kenny Burrell
Art Blakey
Brother Jack McDuff
Eric Dolphy
etc
(CDBGP1034 Fantasy)


 濃ゆいッス。コンセプトは前述の『ブルー・ボッサ』に似ていますが、あの20倍くらい濃ゆい。5年前に買って、見事にハマりました。当時流行りだったラテン・ジャズ系のDJイヴェントでも、ここからジャンジャンプレーされていましたね、といえばだいたいどんな曲が収録されているか想像が付きますか?しかしケニー・バレル(g)も、レッド・ガーランド(p)も、ずいぶんホットなプレーをしていた時期もあったんだなぁ。私は「なんだよ、ジャズってこんなに熱いのか。ロックなんかよりも思いっきりカッコイイじゃん」と思いましたが、さぁみなさんはどう感じるでしょうか?


 もう一枚、コテコテ界の花形楽器、ハモンド・オルガンの名コンピ、ピーター・バラカン選曲による『Funktified』('91)もイイッス。ここに登場するオルガン・プレイヤーは是非、押さえましょう!ジミー・スミス、フレディー・ローチ、”ビッグ”ジョン・パットン、”ベビー・フェイス”ウィレット等々、自らの信念を貫き、ソウルフル・サウンドに命を賭けた猛者達です。


"Funktified"
(TOCJ-5644 EMI)


 しかし、素晴らしいサウンドですね。「何かジャズのテープ作って」と頼まれると、私は必ずここから1曲目のパットン、5曲目のベビー・フェイス、そしてラストのローチを入れるんだけど、どれも受けがいいです。いや、いいなんてもんじゃない。「オルガンの曲!一体何者なの?」とか、大反響になってしまいます。

 「あんなの亜流じゃよ」とか言って切り捨てて来たガンコなジャズ・オヤヂ達に、こんな我々の世代の皮膚感覚やリスペクトを見せてやりたいな。それにしてもピーター・バラカン氏には敬服いたします。よくぞ教えてくれました。バラカン氏がいて、原田氏がいて...私もこのページでそれに続きたいと思います。


 1999年の残念な追記。この「気分その9」でお薦めした2枚のCDはいずれも廃盤になってしまったそうです。なんでこんな名盤を...。
 とりあえず、ラテンものではブルーノートから出ている『Soul Juce』シリーズなどいかがでしょう。その他にも'98〜'99年の間に各社からラテン・ジャズのコンピ結構出ています。オルガンではフレディー・ローチのファースト・アルバム『ダウン・トゥ・アース』が一番感じが近いかなぁ...。







 いよいよ大詰め、次で最終ページです。次のページでは対照的な2つのサウンドをご紹介。ひとつはフュージュンの流れを汲むバカテク・快適ジャズ、そしてもうひとつは「どしゃ、めしゃ、ぴぎゃあぁあぁ〜!!!」のフリー・ジャズです。ここまで押さえれば免許皆伝、バカボン・パパに鍛えてもらいましょう。次週予告とちょっとした発表も次のページに!




やれやれあと2つなのだ
バカテク・ジャズとバクハツ・ジャズ
字は似てるけど大違い、なのだ







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