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97/08/24
パソコンとジャムセッション?
「DOS/V BLUES」
鮎川 誠






'DOS/V BLUES'
鮎川 誠・著
97年1月初版

(幻冬舎 \1600)




Makoto Ayukawa
rocker
 こんなに「そう!その通り!」と共感しながら読んだ本はちょっとない。パソコンに関わる部分も、もちろんロックン・ロールについても。

 「DOS/V BLUES」はパソコンについては全くの素人だったロック・バンド’シーナ・アンド・ザ・ロケッツ’のリーダー鮎川誠氏がパソコン購入を決め、選び、格闘し、自らのホームページを立ち上げて、なんとRealAudioまでも駆使するに至った全記録である。
 この本の面白いところはパソコンの購入を決意するまでの葛藤と、機種選びについての著述がとても長〜いことだ。これはそこらへんのパソコン本には絶対に見られないものだが、これからパソコンを始めようと思っている人達には最高の読み物に違いない。なにしろ「これから」の人達が悩み、ためらい、踏み込めないでいるのはまさにこのステップの問題なのだから。そんな人達に鮎川氏はひとこと「なにか新しいことに興味が沸いたら、振り返ったりせずに、前に歩き出すしかない。やるなら、今しかない」と、文中から勇気づけてくれるだろう。

 もちろん無責任にコンピューターを賛美しているわけではない。買ったあとの面倒までもたっぷりと見てくれる。台所に設置するところから始まる鮎川氏の格闘の記録は、そのまま全てのパソコン・ビギナーの素晴らしい教科書となっているのだ。
 そう、こんな本を待っていたんだ!パソコン専門家の書いた、専門用語とコンピューター賛美が続く文章を読んで、今までそんな世界に全く縁のなかった人達が興味を持つのだろうか?是非やってみたいと決心するのだろうか?きっと逆だろう。縁のない世界、わからない世界と不安になって尻込みしてしまうに違いない。
 僕らが最も知りたかったのは、パソコンに対して、自分にも出来るのかという不安と、ちょっとした懐疑心を持ったフツーの人間(たぶん世の中の90%はこうした人達である)が、パソコンというものをどう考え、どう付き合い、何が出来るかということだ。この本は完璧なまでにそれに答えてくれている。

 そのパソコン選択についてもミュージシャンならではのこだわりが発揮され面白い。僕も含めて音楽をやっている人間というのは、ある道具の持っている思想的、感情的な部分に妙にこだわるところがあるのだ。その鮎川氏が選んだのが、ミュージシャンの間で人気の高いMACではなくIBMのDOS/V機なのがユニークだ。実はこの本、出版されたのは知っていたのだが僕が手にしたのはパソコンを買った直後、ちょうど入門書がわりにと思ってのことだった。だから僕も同じIBMのDOS/V機というのは全くの偶然。購入理由がそっくりで思わず笑ってしまった。僕の周りのサラリーマン・ミュージシャン達もみんなMACばかり、でも時代は絶対、DOS/V、なのだ。そうそう、このタイトル「DOS/V BLUES」がハマるのは世界でも鮎川氏だけだろう。

 文中で感心したことがいくつもある。まずはなにしろパソコンとの付き合い方がポジティヴなのだ。例えば「エラーマークや、警告の、多分誰が読んでも理解できないような、おかしな日本語を平気で多発する」ここまでは同感、しかし続けて「(そんな)コンピューターの人を食ったところも愛嬌があった」とくる。このフレーズには参った。誰もが感じているあの珍妙なメッセージを「コンチクショウ!」ではなく「愛嬌があった」と言ってしまうのだ。僕はなかなかコンピューターに対する懐疑心が解けないでいたのだが、このポジティヴさを見て何かフッ切れたようなものがあった。そう、パソコンとはフランクに付き合うべきカワイイヤツ、なのだ。
 ソフトの入手ルートがいつもインターネット上のフリー・ウェア、シェア・ウェアなのも面白い。何かしたいと思ったら、まずはネットで探し、ダウンロードして使っている。雑誌やパソコン・ショップをアテにしている我々とは全く異なった発想だ。思うにこれは、長年のロックン・ロール人生で養った「ジャム・セッション」の感覚なのではないか?そうしたソフトの作成者にこの上ないリスペクトを表しているところも、セッション相手のミュージシャンに対する態度の様で実に気持ちのいいものだった。
 そもそも鮎川氏とコンピューターを結ぶ線には、ウィルコ・ジョンソンら大物ミュージシャンから氏の旧友まで数々の人物が登場する。コンピューターという「モノ」だけが存在するわけではない、その周りにいるさまざまな人々との付き合い、ちょっと新しい付き合い方こそが鮎川氏のコンピュータ・ライフである。これもまた一種の「ジャム・セッション」なのかもしれない。

 中学校、いや小学校時代にロックと出会い、体の芯までロックが染み込んでしまった僕はモノの基準を「ロックかロックじゃないか」で考えるクセがある。会社でも同僚や上司や後輩を「この人はロック、この人はロックじゃない」と密かに考えていたりするのだ。若い奴がロックで、お年寄りがロックじゃないということは全然ない。若いくせに頭がガチガチで、煮ても焼いても食えないノット・ロックンロールな奴もいれば、自分の父親よりも年上なのに「俺よりもブッ飛んでるぜ!」と感心するようなロック・スピリッツ溢れるオッサンも沢山いる。
 鮎川氏のパソコンに対する姿勢は一貫している。「コンピューターをロックの仲間として/こいつはたいしたロックン・ロール・マシンだぜ」である。ここが一番共感したところだ。僕ら音楽を齧った人間からすれば、パソコンなんてちょっと風変わりな楽器と同じ。表現したいものがアタマのなかにたっぷりあって、それを伝えるための単なる道具に過ぎないんだ。しかもギターやキーボードの様に、何年も地道な練習を必要とするものではナイ!ちょっとしたルールをマスターすればそれなりに使えて、表現出来てしまう、そうだな、スチール・ドラムみたいなプリミティヴなものなんじゃないかな。この本を読んで、僕なりにそんなことを考えてみたのだが....。

 こんなことを言っては失礼かもしれないが、もうひとつだけ注目すべきは鮎川氏の年齢だろう。1948年生まれ。来年で50歳。そうだよなあ、僕がシナロケのアルバム『真空パック』を買ったり、ステージの鮎川氏を初めて観たりしたのは中学3年生のこと。あれから15年以上経っているんだからなあ。
 そう!鮎川氏はTVのニュースに度々登場する「パソコンのマスターに苦悩するヴェテラン管理職」とまさに同世代なわけだ。「おーい、サダナリくーん、変な画面が出たぞー、助けてくれー」と呼んでくる部長さん達と同じ位の歳。それでこの柔軟さと好奇心、そして行動力。これぞロックン・ロールの賜物、ロッカーはいつまでも若く、転がり続けるということだろう。

 この本のキーワードのひとつが「日本のインターネット、ちょっとロックが足りなぜ」である。全く同感。僕が見たところJAZZはもっと足りない。だから僕はこのホームページを立ち上げた。ロックとJAZZの濃度を少しでも上げるために、だ。パソコン作業中はいつも(真夜中でも)FENをかけっぱなしにしている。FENのローファイな音質と古臭いロックが、パソコンってヤツに妙にマッチするんだ。そして知っている曲がかかると、いつも大声で歌い、リズムを取りながらとキーを叩いている。まさに今も、PLASTICSもカヴァーしたモンキーズの名曲「恋の終列車」に合わせて。

 ロックファンがこの本でパソコンに近づき、パソコンファンがロックに近づいたら、最高!。







■ 鮎川氏とバンド、シーナ・アンド・ザ・ロケッツのホームページ、"SHEENA & THE ROKKETS' OFFICIAL WEB SITE a.k.a. RokketWEB"こちらです。

■ このブック・レヴューが著者・鮎川氏ご本人の目にとまり、鮎川氏ご本人の手によりRokket WEBの中の「DOS/V BLUES」反響ページ"DosV MegaREVIEW #1"に全文転載されました(97/09/11〜)。是非こちらをご覧下さい。

■ このブック・レヴューが「DOS/V BLUES」の文庫化増刷分に収録されました!97年11月10日幻冬舎より発売。絶対に買ってね!くわしくはこちらをご覧下さい。

本当にThanks to Mr.Makoto Ayukawa !! We love you !










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