川 島 雄 三 図 書 館



生きいそぎの記

藤本義一

昭和49年10月24日初版
講談社 \790(絶版)


 伝記小説「生きいそぎの記」(短編)が収録された重要な原本だが残念ながらこちらも絶版。どうなってるんだ?日本の出版界?
 宝塚映画の掲示板に貼られた「思想強固デナク、身体強健デナク、粘リト脆サヲモチ、酒ト色ニ興味アルモノヲ求ム。監督室内、股火鉢ノ川島」なる手帳の切れ端を見た大学7年生の藤本青年が、「胃潰瘍になるか肝臓をやられるから止めとけ」という先輩達の制止を振り切って、シナリオ創作の弟子となる。そして繰り広げられる言葉と思想と泥酔の応酬。
 深夜に及ぶ狂気の論争や、自虐を極めた奇行、奇言の数々...帯に書かれた「川島晩年の暗い狂乱とかかわった」がその凄まじさを象徴している。あまりにも生々しい病状の描写も圧巻。しかもそのほとんどが、氏が体験した実話だというのだから...。しかしそれでいて終盤の別れの場面では得も云われぬ感動が残る。傑作である。
 帯には前述の通り川島についての力の籠もった記述があり、見開きには『幕末太陽傳』と『雁の寺』の撮影スナップが使われて、さながら川島書の趣だが、全256ページ中「生きいそぎ...」は巻頭から4分の1ほどの63ページ。だが川島ファンだからと言って、そこだけ読むというのは非礼であろう。関西版「洲崎パラダイス・赤信号」とも言える「赤線・飛田大門」や、川島にも通じる死への無情感を綴った「柩の舟人」など後半の短編も素晴らしい。A6版カバー帯。






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