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97/10/04
第二回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
’さあ、最初の1枚は?’
お薦めCD23連発





 ジンセイを決める (?) この1枚 


 お待たせ致しました。『サダナリ・デラックス』の人気コーナー、はじめてのJAZZの第二回です。今回はお約束通り、今はジャズのCDを1枚も持っていない、だけど欲しい!という方にお薦めする「最初の1枚」特集です。

 難しい!難しいです、今回は。まず責任が重い。もしこの記事を参考に買ったCDが面白くなくて「なんだ、ジャズなんてこんなものか」と見限られてしまったら、さらには「サダナリなんてエラそうにしてるけど、つなんないモノ薦めやがって、タイシタ野郎じゃねぇな」と嫌われてしまったら....。結構プレッシャーかかってます。
 また、まぁ、ひとくちに「これからジャズを聴きたい人」といっても年齢、性別、趣味、特技ほんとうに様々ですからねぇ。特に今までどんな音楽を聴いて来たか、ジャズに対してどんなイメージを描いているのか、というのが大きく違いますよね。難しいのだ〜。

 しかし!そんなことでへこたれる『サダナリ・デラックス』ではナイ!前回の「主要ジャズ・メン100人とそのスタイルが一目でわかる、ジャズとはこうなっているのだ一覧表」に続き、今回も新機軸を打ち出しました。題して「気分別・最初の1枚」です。
 たった今、申し上げた通り、今までどんな音楽を聴いて来たか、ジャズに対してどんなイメージを描いているのか、そのあたりをイメージして11のコーナーをご用意しました。「クラシック一筋で来たけど、実はジャズも聴いてみたい。でも独り身で、一人暮らし。あぁ一体全体誰に聞けば....」と考えている37歳・図書館司書(女性)、という方だっているだろうし「パンクこそ我が人生と思って来たけど、最近抜け毛が気になり出した。俺もそろそろ大人になんなきゃな。まずは手始めにジャズから行くべ」と考えている33歳レンタル・ヴィデオ店員(男性)なんてのもいるでしょう。この二人に同じものを薦めても100%はマッチしないですよね。
 というわけで、下の記事、ご覧下さい。まぁここまで挙げれば、どれかバシッとハマるものがあるでしょう。まずは見出しの「気分」を読んで「これかな?」と思うものを選んで下さい。

 それから事前にひとこと。これから挙げるアルバムはいわゆる有名盤、必携盤ではありません。マジメなジャズ・ファンから見れば「な、なにを挙げておるのだコヤツは?!」みたいな珍盤、奇盤も数多く含まれています。でも自信を持って言えるのは「どのアルバムも1曲の捨て曲もなく、まるごとたっぷり楽しめるものばかり」ということです。モダン・ジャズ史に燦然と輝く歴史的意義の大きな名盤が入門に適した「最初の1枚」か?というとちょっと疑問があります。むしろちょっとユニークな、笑ってしまうようなアルバムこそ入門には適しているのではないでしょうか。「うわー、ジャズってこんなに楽しいのか」「おぉ、ジャズってエグイじゃん!」という強烈な印象の方がきっと心を強く捕らえ、次の1枚に繋がる、と考えています。

 ちなみにこのレヴュー、「’うすくち’から’こいくち’」「’さわやか’から’コテコテ’」という順で並んでいます。当然私は後半の方が好きなんですけどね、へっへっへ....。



ゴキゲンなのを
探してネ





 古い映画を観るような、ノスタルジックな雰囲気に浸りたい

気分その1 


 「ジャズといえは....」で思い出すサウンドは、人によってさぞかし大きく異なっていることでしょう。でも、意外にこのCDに収めめられているようなものを連想する人は多いのではないでしょうか。そう、きっと多数派です。

"RADIO DAYS"
O.S.T.
(RCA 3017-2-N)
 これはいわゆるジャズ畑のアルバムではありません。'87年に封切られたウディ・アレン監督の映画『ラジオ・デイズ』のサントラです。しかし、これが本当に素晴らしい!ジャズ・ファンの鑑賞にも十分過ぎるぐらい応えてくれます。
 映画はアレン自身の少年時代を、ラジオにまつわるエピソードと彼の家族の生活を軸として描いた、なんともホロ苦いコメディーで、サントラの方は舞台となった'40年代半ばの甘いスウィング・ジャズを中心に選曲されています。それにしても、うーん、見事だなぁ。グレン・ミラー楽団の「In the mood」、デューク・エリントン楽団の「Take the 'A' train (A列車で行こう)」といった有名曲に混じって、トミー・ドーシー楽団の「Opus No.1」、ガイ・ランバード楽団の「That old feeling」などなど、たどり着くまでにちょっと時間のかかりそうな中級レベルの名曲もこれ1枚でカヴァー出来てしまう。まずはこれを買って、次にそれぞれの楽団のオリジナル・アルバムを揃えて行ったら、もう40年代のスウィング・オーケストラにはちょっとウルサイ、立派なジャズ・ファンの出来上がりですよ。
 個人的には「Opus No.1」がたまらないなぁ。この曲、かなり昔にFENで放送されていた"Golden age"という古めのジャズ専門番組のテーマだったんです。毎週毎週欠かさず聴いて、スウィング期のナンバーはこの番組で覚えた様なものだから、この曲を聴いただけで胸がどきどきしてしまいます!
 実はこのアルバム、純粋なジャズ以外の曲も入っています。でもそれもしっかり聴いて欲しいですね。「The Donkey Serenade」はアラン・ジョーンズのテノール。このテノールってヤツが最近気になっているのだ!きっかけは50年代に活躍したマリオ・ランツァという夭折の人気歌手なんですが。他にもラテンのザビア・クガード楽団、ヴォーカルのサミー・ケイなども聴きモノです。
 そしてこのサントラを手にしたならば、ぜひとも映画も観て欲しいと思います。残念ながらCDには収録されなかったラテンの名曲「ティコ・ティコ」や「ババルー」、歴史的にも重要な女性ブラジル人女性歌手、カルメン・ミランダなども登場して、なんとその数43曲。もうこれは単なるノスタルジックなジャズ映画を超えているかもしれない。'40年代のポピュラー音楽を俯瞰する、大変な作品といえるのではないでしょうか?
 なにしろこのウディ・アレンというオッサン、'77年に自ら監督・脚本・主演した『アニー・ホール』でアカデミー賞を取っているのですが、その発表時に授賞式会場におらず、なんとミューヨークのジャズ・クラブ「マイクルズ・パブ」でクラリネットを演奏していたという逸話の持ち主。音楽へのこだわりは並々ならぬものがあります。

映画『ラジオ・デイズ』
'87年10月公開
出演
ミア・ファーロー
マイケル・タッカー
ダイアン・ウイースト他
レンタルで簡単に
観られます

 まま、難しいことは抜きにして、とにかく観て、笑って、泣いて下さい(映画コーナーみたいになってしまったな。あちらでのウディ特集はいずれ!)。オープングのエピソードから思いっきり笑えますよ!夜更けの留守宅にドジなコソ泥が侵入、室内を物色していると突然電話が鳴り、よせばいいのに取ってしまう(バカだね)。電話の相手はなんとラジオの生放送「電話帳から選ばれました『曲名あてクイズ』です。さぁ今演奏している曲のタイトルは?」....。







 ピアノ・トリオ」という言葉に惹かれるんです
 とびきり素敵なのを聴いてみたい


気分その2 


 「ピアノ・トリオ」とはピアノを中心にベース、ドラムで編成された3人組のことで、ジャズではとても一般的な編成になっています。その「言葉」に惹かれる、か....こういう方は多いでしょうね。でもね、実は、ちょっと難しいんです。冒頭に書いた通り「まるごとたっぷり楽しめる」ピアノ・トリオってなかなかなくてね。私なんかは馴れてしまいましたが、初心者が聴くとどうしても単調に感じて飽きてしまうかもしれません。でも、イイのも、ちゃんとありますよ!

"Walta for Debby"
Bill Evans Trio
(OJCCD-210-2)


この人がエヴァンス
マジメそう
 『Waltz for Debby』('61)は知性派ピアニスト、ビル・エヴァンスの代表作にして大傑作。一般にこの『Waltz for Debby』と、『Explorations』('61)、『Portrait in jazz』('59)がリヴァーサイドというレーベルに残した「トリオ3部作」といわれていますが、いやー、まずは『Waltz for Debby』でしょう。これは退屈しませんよ!ポイントはこの繊細な作品がなんとライヴ盤だということと、36年前に録音されたとはとても思えない素晴らしい音質と瑞々しさを有しているということでしょう。
 とにかく、理屈抜きに聴いて欲しい!「先週の土曜日に六本木でデジタル録音した」と言われても信じてしまうようなこのサウンド。一体どうやって録ったんだろう?エヴァンスの微妙なタッチの差や、本当に「触っているだけ」といった感じの詩的な装飾音、スコット・ラファロがベースをはじく「パチッ」という弦の響き、ドラム、ポール・モチアンの表情豊かなシンバルやブラシなどなど。そうだな、これで「なるほど。これがジャズか」と掴んでしまう人もいるかもしれないな。そしてこのサウンドの緊張感が、まるごと、何回聴いても飽きさせない原因なのでしょう。う〜ん、名盤である。

 夜に聴きましょう。出来れば照明を落として、ステレオに向かい合って目を閉じれば、1961年6月25日、ニューヨークの名門ジャズ・クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」へタイムスリップ出来ます。目を開くと、本当に「そこ」に座っていたら最高なんだけど(笑)。
 しかし、これ聴いた人、絶対にあとの2枚も買うことになるな。あ〜あ、早速「ジャズ地獄」の1丁目1番地だ。でもそれもまた良し!エヴァンスから「入った」人も多いですよ。
 しまったなぁ、最初ピアノ・トリオのことをちょっと悪く書いてしまって。こんな名盤もちゃんとあるじゃないか。よし、ノッて来たぞ。もう1枚ご紹介しましょう!
 エバンスの作品を聴いて「ピアノ・トリオってこういうものなのか」と納得されては当サダナリ・デラックスとしてはヒジョーに困る。あれがピアノ・トリオの全てではない!コテコテ・ノリノリお客さん大熱狂のピアノ・トリオだってあるのだ!というわけで、ラムゼイ・ルイス・トリオ『ジ”イン”クラウド』('65)をご紹介しましょう。
 いやー、ホントに対照的ですよ。「プロフェッサー」とまでいわれた繊細な白人ピアニストと、エレクトリックに転向後、EW&Fと共にジャズ・フージョンの名曲「サン・ゴッデス」('75)を生むコテコテ黒人ピアニストと、同じ編成なのにこうまで違うものかな。このへんがジャズの面白いところでもあるんだけどね。
 タイトル・チューンの「ジ"イン"クラウド」はビルボードのポップス・シングル・チャートに登場した数少ないジャズ・ナンバーです。しかも最高位5位と大健闘。しかし、こういう曲がチャートに食い込んで、街角で流れている時代ってのも、いいネ。なんとも。ムフフ。
 この曲以外にも、ベースのエルディ・ヤングがチェロの指弾きでノリまくる「テネシー・ワルツ」や、コテコテ・ボサの「フェリシダーヂ」など聴きどころ満載です。

 ピアノ・トリオというのは恐いほど正直な編成ですね。シンプルゆえに「裸で勝負してる」って感じがするな。ソロ・ピアノとも明らかに違うし、アンサンブルの妙もあるし。いやー、深いよ、これは。私はちょっと弱いんで皆さんのご健闘をお祈りします(実は結構持ってるんだけど、いまいち決定的なのに当たっていない。最近買ったブラッド・メルドーはとても良かったですが)。

'The"in"crowd'
Ramsey Lewis Trio
(MCA CHD-9185)


こちらラムゼイ・トリオ
エエお顔してはります







 サックスがいて、ピアノがいて...
 いかにも「ジャズ・バンド」という音を聴いてみたい


気分その3 


 はい、みなさん、この2枚、絶対にお薦めです!この2枚のいずれかが「最初に買ったジャズのCD」になるならば、そいつはどえれぇ幸せモンだぜ。サダナリが身をもってお薦めする名盤です。

 なんか異常にチカラ入ってますが、実はこれにはツライ事情が....。私事ではありますが、不肖サダナリが初めてジャズのアルバムを買ったのは今から10数年前、大学1年の夏のこと。「俺も大学生だしな、一丁ジャズってヤツを買ってみるか」と思ってトライしたんですが、なにしろアシッド・ジャズの「ア」の字もない頃ですからねぇ。まだジャズなんて一部のヘンクツなオッサンの慰み物で、今のようにヤングたちには開放されていなかったのじゃよ、ゴホゴホ。
 勇気要ったし、それにも増して何を買えばいいのかわからなかった。たまたま読んでいたロック系の雑誌に「ロック・ファンに薦めるジャズ入門」というどこかで聴いたようなタイトルの特集があって、そこで一番大きく採り上げてあった「ちゃーりー・ぱーかー」とかいう人の「さぼい盤」というのを買ってみたのですが、これが、見事に『大ハズレ』!!
 でもこれはパーカーが悪い訳ではないのだ。「初心者・最初の1枚・パーカーのSAVOY盤」という組み合わせが悪かったのだ。今や神と仰ぐパーカーだが、ひたすらロックだけを聴いて来た若干20歳の青いサダにはその真価は理解出来ませんでした(数年後、ジャズ界の事情が飲み込めると「とにかくパーカーを聴け」と雑誌で吠えていた評論家G氏が、どこへ行っても「とにかくパーカーを聴け」としか言わない有名な困ったオトッツァンであることが判明。エライ奴に引っかかってしまったものである)。

 その点、この2枚、これなら安心。私がこれらを手にしたのはそれから数年後(パーカーがよくわからなかったんで、それから数年間ジャズを放っておいたのだ。もったいねぇ〜!)なんですが、マジで「あぁ、もしあの時このCDを買っていたら、俺の人生少し変わっていたかもしれないなぁ」と思いましたよ。

"Art Pepper meets
The Rythm Section"
(OJCCD-338-2)
 それほどまでに入門用に最適で、かつ人生にまで影響するかもしれない、まずはアート・ペッパー(as)『ミーツ・ザ・リズムセクション』('57)。そう、これをあの時に買っていたら、ロックはやめて、アルト・サックスを買って、大学ジャズ研に飛び込んで、今頃どこかの場末のキャバレーでブリブリ吹いていたかもしれないな。そんな事を思わせるくらい、このアルバムにはジャズってヤツの、特にサックスの魅力と魔力がわかりやすく収まっています。
 「ユッド・ビー・ナイス・トゥー・カム・ホーム・トゥ」という長い名前の曲はSEIKOのTVCMにも使われていたから知っている人も多いでしょう。あそこでは女性ヴォーカル(ヘレン・メリルという人です)をフィーチャーしていましたが、ここではペッパーのアルトがやはり妖艶に唄います。「ワルツ・ミー・ブルース」はその名の通り3拍子のブルース。美しい曲です。ラテン・ナンバーの「ティン・ティン・ディオ」なんてぇのも入っている。「うぉーカッコイイぜ!」と言いたくなるようなイカした雰囲気です。
 東海岸を拠点としていたレッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)の3人がマイルス・デイヴィス(tp)のツアーでロス・アンジェルスを訪れ、イースト・コースト派の代表格であるペッパーとセッションした、むしろちょっとした「異種格闘技」である、とかいうマニア向けの裏話もあったに記憶するが、そんなことはどうでもいい。とにかく誰かこれを聴いて私の替わりに立派なサックス奏者になっておくれ。
 もう1枚も名盤にして入門最適盤、ソニー・ロリンズ(ts)『サキソフォン・コロッサス』('56)です。このアルバム、その名を『サキ・コロ』と省略されることでも有名です。オザケン、やすきよ等、名前を省略されるアーティストは洋の東西を問わず多々おりますが、省略して呼ばれるほどポピュラーなアルバムというのはちょっと珍しいのではないでしょうか?「サジャ・ペパ」「ベガ・バン」「ペト・サウ」とは言わないですよね。ビートルズもストーンズも、ビーチボーイズだってかなわないのだった。ロリンズ恐るべし!

 曲は、断言します、誰でも知っている曲ばかりです。「聴いた事あるよー、そうか、この人のこういうタイトルの曲だったのか!」の連続でしょう。前のペッパーがサックスの妖艶さを表現しているとすれば、このロリンズはその楽しさをこれでもかと言わんばかりに示してくれています。もっともこの人の場合「こう表現しよう」と理屈を組み立てて演奏しているわけではなくて、とにかく楽器を持ったとたん滝のように音楽が溢れ出て来るという感じなんですが。

"Saxophone Colossus"
Sonny Rollins
(Victor VICJ-23501)
 '50、'60年代に活躍した多くのジャズ・ジャイアンツが亡き人となった今でも、当時若手だったロリンズは現役バリバリで活躍中。私もつい3年前に来日公演を横浜で観ましたが、もう音が止まらないって感じでした。そんなパワーをこのCDから授かって欲しいと思います。

 ああ、これをあの時に買っていたら、テナー・サックスを買って頭をモヒカンにして、今頃黒人になっていたかもしれないな。誰か私の替わりに黒人に....。







 さて、毎度お馴染み改ページでございます。やれやれ、3つの気分で早くも1ページか。11全部説明したら、一体どれくらいの長さになることやら。例によってバカボン・パパをクリックして、次の気分にGO!




多少長くても説明は細かい方がいいのだ
次はシブイジャズ、ライブなジャズとヴォーカルものなのだ
これでいいのだ







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